この記事でわかること
- 声が「肖像権」ではなく3つの法的根拠で守られている理由
- 2026年8月に公表された法務省の解釈指針で示されたこと
- AI音声を使う前に確認すべき4つの問い
- 同意書で必ず特定しておくべき8項目
- 汎用の合成音声と、特定人物の声のクローンの実務上の違い
法務省の「肖像、声等の無断利用による民事責任の在り方に関する検討会」は、生成AIの普及により肖像・声の無断利用が深刻化していることを受けて2026年4月に設置され、同年7月の第5回会議を経て、取りまとめ報告書「生成AIによるパブリシティ権侵害等に関する解釈指針」が公表されました。ポイントは、人の声がパブリシティ権の保護対象になりうることを、公的な文書として整理した点です。
出典:法務省「肖像、声等の無断利用による民事責任の在り方に関する検討会」(検討会の資料・取りまとめ報告書が掲載されています)
前提|「声の権利」という単独の権利はない.
日本の法律には「声の権利」という名前の権利はありません。実務では、次の3つを重ねて考えます。
- 人格的利益:みだりに自分の姿や声を使われない利益。有名人でなくても主張できます
- パブリシティ権:氏名・肖像等が持つ顧客吸引力を無断で利用されない権利。判例上、もっぱら顧客吸引力の利用を目的とする場合に侵害になると整理されています
- 不正競争防止法など:本人が出演していると誤認させる表示や、信用を害する行為の問題
加えて、既存の音源をそのまま使う場合は著作隣接権(実演家の権利・レコード製作者の権利)が別に関わります。「本人の声に似せた音声を作る」話と「本人の音源を使う」話は、まったく別の枠組みだと切り分けてください。

問題の核心は「AIを使ったこと」ではなく、特定の人物の声に由来する資産を、同意の範囲を超えて使ったことにある。AI WITH MAGAZINE 編集部
2026年の状況|指針が出て、線引きが動き始めた.
2025年以降、AI音声をめぐる問題は実害の段階に入りました。報道および関係団体の公表によると、芸能人の肖像や声優の声を無断で生成したとみられる画像・動画が短期間で数万件規模で確認され、経済的損失の推計も示されています。声優の団体からも、無断でのAI生成に対する反対の意思表示が繰り返されてきました。
こうした背景のもとで整理されたのが、2026年8月の法務省の解釈指針です。新しい法律を作ったわけではなく、現行法と判例法理のもとで、生成AIによる肖像・声の無断利用をどう評価するかを示したものです。実務的な意味は次の2点に集約されます。
- 声が保護対象になりうると公的に整理されたことで、「声には権利がないから自由」という前提が使えなくなった
- 判断の枠組みが示されたことで、企業側も事前にチェックできるようになった
実務|使う前に確認する4つの問い.

汎用の合成音声か、特定人物のクローンか
まず切り分けるべきはここです。ツールが提供する汎用のナレーション音声は、特定人物の声に由来しないため、肖像権・パブリシティ権の観点でのリスクは大きく下がります。この場合に確認すべきは、ツールの利用規約(商用利用の可否、クレジット表記)です。
一方、実在の人物の声を学習させたクローン音声は、本人の同意が出発点になります。ここで「社内利用だけだから」「テストだから」と例外を作ると、あとから範囲が広がって収拾がつかなくなります。
同意は「取ったかどうか」ではなく「範囲」で見る
AI音声の特徴は、一度モデルを作れば無限に、本人が言っていない内容を話させられる点です。従来のナレーション収録の契約書をそのまま流用すると、範囲が空白のまま運用が始まります。

社内で決めておくべきこと.
使用する音声の種類を分類する
「汎用の合成音声」「自社タレント・自社社員のクローン」「外部タレントのクローン」の3分類で運用ルールを分けます。分類が混ざると判断できません。
同意書のテンプレートを用意する
用途・媒体・期間・地域・学習利用・改変・二次利用・報酬・停止手続きの9項目を埋める形式にします。案件ごとにゼロから書くと抜けが出ます。
生成物の管理台帳を作る
どのモデルで、いつ、どの案件のために生成したかを記録します。停止要求が来たときに、どこまで使っているかを即答できる状態にしておきます。
開示のしかたを決める
AI音声であることを表示するのか、しないのか。方針を先に決めておくと、案件ごとの判断で揺れません。
停止・削除のフローを決める
本人や権利者から申し出があったときに、誰が受け、何日で止め、モデルとデータをどう削除するか。ここまで決めて初めて運用に乗ります。
社内研修動画やIVR(自動音声応答)のように社外の目に触れにくい用途でも、同意の範囲は書面で残してください。担当者が異動したあとに「誰の声で、どこまで許諾を得ていたか」が分からなくなるのが、実務で最も多いトラブルの形です。
AI音声を公開する前のチェックリスト
Checklist- 使用する音声が汎用音声か、特定人物のクローンかを特定した
- 特定人物の声を使う場合、本人の書面同意を得ている
- 同意の範囲(用途・媒体・期間・地域・改変・二次利用)を超えていない
- 本人が出演していると誤認される作りになっていない
- その声の顧客吸引力に依拠した訴求になっていない
- ツールの利用規約で商用利用が認められている
- 生成ログと利用先の台帳を記録した
- 停止要求があった場合の窓口と手順が決まっている
よくある質問.
Q声は肖像権で守られるのですか?
Q有名人ではない一般の人の声なら問題ありませんか?
Q「似ているだけ」なら大丈夫ですか?
QAI音声であることを表示する義務はありますか?
Qすでに公開している動画にAI音声を使っていました。どうすべきですか?
まとめ|「声は権利の対象になる」を前提に設計する.
- 声は人格的利益・パブリシティ権・不正競争防止法の3層で守られている
- 2026年8月の法務省の解釈指針で、声がパブリシティ権の保護対象になりうることが整理された
- 実務の出発点は「その音声は誰の声に由来するか」の切り分け
- 同意は取得の有無ではなく範囲の特定で見る。AI音声では期間と改変の記述が要
- 停止・削除のフローまで決めて、初めて運用に乗る
参考にした一次情報:法務省「肖像、声等の無断利用による民事責任の在り方に関する検討会」 / 文化庁「AIと著作権について」 / 日本俳優連合
※ 本記事は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。個別の案件については弁護士等の専門家にご確認ください。記載は2026年9月時点の情報です。
AI音声の同意設計や社内ルールづくりから、実務ベースでご相談いただけます.



