金額よりも先に効くのは、差止です。公開を止められ、制作物を回収することになったときの損失は、賠償額より大きくなることがあります。AI WITH MAGAZINE 編集部
この記事でわかること
- 侵害が認められたときに請求される3つのもの(差止・損害賠償・刑事罰)
- 著作権法114条による損害額の3つの算定方法と、使われる場面
- 日本で実際に起きている訴訟と、2026年時点での到達点
- 侵害を指摘されたときの初動対応の順序
- そもそも請求されないための、制作段階での5つの手当て
請求されるのは「お金だけ」ではない.
著作権侵害が認められたとき、権利者が取りうる手段は大きく3つあります。
- 差止請求(著作権法112条):侵害行為の停止と、侵害品・制作設備の廃棄を求めるもの。故意や過失がなくても請求できるのが特徴です
- 損害賠償請求(民法709条ほか):金銭の賠償。故意または過失が必要です
- 刑事罰:著作権侵害は刑事罰の対象でもあります。個人と法人のそれぞれに罰則が定められています
広告やキャンペーンで生成AIを使っていた場合、事業への打撃がいちばん大きいのは差止です。配信停止、素材の差し替え、印刷物の回収、謝罪対応。賠償額が小さくても、事業コストは大きくなりえます。

損害額はどう計算されるのか.
著作権侵害の損害額は、権利者が立証するのが難しいため、著作権法114条に推定規定が置かれています。権利者は、立証しやすい方法を選んで主張できます。

「使用料相当額」が下限になる
3つのうち最も立証が容易なのが使用料相当額です。写真・イラスト・記事といった素材の無断利用では、この基準が使われることが多くなります。実務上の感覚としては、正規にライセンスを買っていれば払っていたはずの額が、最低ラインになると考えておくのが安全です。
さらに、裁判所は損害額の立証がきわめて困難な場合に、口頭弁論の全趣旨などから相当な損害額を認定できる仕組みも用意されています。「計算できないから請求できない」とはならない構造です。
金額よりも「誰が払うか」が問題になる
受託制作では、生成AIを使ったのが制作会社、公開したのがクライアント、という構図になります。この場合、権利者は公開した側(クライアント)にも請求できます。契約に補償条項がなければ、クライアントが払ったあとに制作会社へ求償できるかどうかで揉めます。制作委託契約に、AI利用の開示義務と補償の分担を書いておくことが実務的な防御になります。
| 論点 | 誰の問題か | 実務での手当て |
|---|---|---|
| 生成AIを使ったこと自体 | 制作側 | AI利用の有無と範囲を、提案段階でクライアントに開示する |
| 出力が既存作品に似ていた | 制作側・公開側の双方 | 公開前の類似チェックを工程に組み込み、記録を残す |
| 公開して損害が発生した | 公開側(発注者) | 差止に備え、差し替え素材と撤去手順を用意しておく |
| 賠償金の負担 | 契約で決まる | 制作委託契約に補償条項と上限を明記する |
| ツールの規約違反 | 利用契約者 | 契約プランと利用者を台帳で管理する |
| IP補償の適用 | ベンダーとの契約 | 補償対象の機能・書き出し方法の範囲内で制作する |
日本ではどこまで来ているのか.

2026年時点で、日本では生成AIをめぐる著作権侵害について確定判決はまだ出ていません。一方で、2025年8月には読売新聞社が、続いて朝日新聞社と日本経済新聞社が、AI検索サービスを運営する事業者を相手取って提訴し、いずれも20億円台の損害賠償を請求しています。国内でも金額の桁が具体的に見える段階に入った、ということです。
判断の枠組みとしては、文化庁が2024年3月に公表した「AIと著作権に関する考え方について」が、引き続き実務の拠り所になっています。ここでは、学習段階(著作権法30条の4)と、生成・利用段階を分けて整理されており、学習が原則として適法であっても、生成物の公開が侵害になりうるという構造が示されています。
「学習は合法と聞いたから大丈夫」という説明は、生成・利用段階の議論を飛ばしています。企業が問われるのは、ほぼ常に生成・利用段階です。ここを分けて説明できるかどうかが、社内の理解度を測る目安になります。
侵害を指摘されたときの初動.
公開を止めるかどうかを、その日のうちに決める
止める判断は早いほど傷が浅くなります。損害額は公開期間と流通量で膨らむため、まず止めて、それから調べるのが基本です。
生成ログと制作経緯を集める
使用ツール、モデル、プロンプト、生成日時、加工の工程、確認者。依拠性を争う材料になります。ここで記録がないと、説明そのものができません。
誰が契約当事者かを確認する
ツールの契約者、制作を担当した会社、公開した主体。責任の所在は契約で決まります。制作委託契約と利用規約を同時に確認します。
弁護士に相談する
類似性の判断は専門的です。自己判断で「似ていない」と返信すると、あとから不利な材料になることがあります。
再発防止のルールを1枚にする
同じ原因での再発は、過失の評価を重くします。原因(プロンプト、素材、確認漏れ)を特定し、工程を直します。
請求されないための、制作段階での手当て
Checklist- プロンプトに作品名・作家名・キャラクター名・ブランド名を入れていない
- 公開前に逆画像検索などで類似チェックを行い、記録を残している
- 生成ログ(日時・ツール・モデル・プロンプト)を保存している
- 契約中のプランで商用利用が認められていることを確認した
- 制作委託契約に、AI利用の開示義務と補償の分担を記載している
- IP補償の対象範囲(機能・書き出し方法)の中で制作している
- 差止を受けた場合の差し替え素材と撤去手順を用意している
よくある質問.
Q生成AIが勝手に似た絵を出しただけでも、責任を負いますか?
Q学習段階は適法だと聞きました。それでも侵害になりますか?
Q損害賠償はどのくらいの金額になりますか?
Q制作会社に発注した成果物で侵害が起きた場合、発注側も責任を負いますか?
QツールのIP補償があれば、賠償は心配しなくていいですか?
まとめ|金額の前に「止められること」を織り込む.
- 請求されるのは差止・損害賠償・刑事罰の3つ。事業インパクトが大きいのは差止
- 損害額は著作権法114条の3つの方法で算定される。実務では使用料相当額が基準になりやすい
- 国内では2025年夏以降に提訴が相次ぎ、請求額は20億円台。確定判決は2026年時点でまだ出ていない
- 受託制作では公開した側も請求を受ける。契約に補償の分担を書いておく
- 初動は止める → 記録を集める → 契約を確認する → 専門家に相談するの順
参考にした一次情報:著作権法(e-Gov法令検索) / 文化審議会「AIと著作権に関する考え方について」(2024年3月) / 文化庁「AIと著作権について」
※ 本記事は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。個別の案件については弁護士等の専門家にご確認ください。記載は2026年9月時点の情報です。
制作フローの権利チェックや、契約条項の設計からご相談いただけます.



