この記事でわかること
- IP補償とは何か、保険とどう違うのか
- Fireflyの学習データ方針と、商用利用についてAdobeが説明していること
- FireflyのIP補償が効くための5つの条件(プラン・機能・画面・書き出し・除外)
- 除外条件と補償の上限など、規約で読み落としやすいポイント
- Microsoft・Google・OpenAI・Getty Imagesの補償制度との比較
- 補償があっても防げないリスクと、その備え方
FireflyのIP補償は、チーム・エンタープライズ向けの対象プランで、対象機能・対象の画面を使って生成し、対象プランの利用者が書き出した出力にだけ効く契約上の約束です。2026年4月23日発効の規約では、改変や組み合わせ、使われ方の文脈から生じた請求は除外され、1出力または1請求あたりUS$1万の上限があります。補償は「安全の証明」ではなく、条件を守った使い方に対する備えと捉えてください。
IP補償とは何か|「保険」ではなく契約上の約束.
IP補償とは、生成AIの出力について第三者から権利侵害を主張されたとき、提供元が利用者の防御(訴訟対応)を引き受け、判決や和解で決まった賠償額を負担するという契約上の約束です。Adobeも法人向けのFAQで、補償(Indemnification)を「一方の当事者が、特定の種類の請求について法的な防御を引き受け、金銭的な損害を支払うことに同意する契約上の概念」と説明し、補償には限定や除外が付くのが通常だとしています(Adobe Firefly Legal FAQs for Enterprise Customers(2024年5月版))。
押さえておきたいのは、次の3点です。
- 侵害しないことの保証ではない:Adobeの規約は、出力が第三者の権利を侵害しないことを含め、出力について一切の保証をしないと明記しています。補償は、それでも請求を受けたときの手当てです
- 対象は「請求」:第三者からの請求(訴訟など)への防御と賠償が対象で、自社で作り直す費用や、施策を止めたことによる損失は対象ではありません
- 条件を守った使い方が前提:対象プラン・対象機能・規約に沿った使い方など、条件から外れると補償は受けられません
商用利用の安全性を「学習データ・利用規約・IP補償」の3つの観点で判断する考え方は、商用利用で安全な画像生成AIの選び方の記事で解説しています。本記事はこのうちIP補償に絞って、条件を細かく見ていきます。
Fireflyの学習データ方針と商用利用.
Adobeは日本語の公式ページで、Fireflyのモデルについて次のように説明しています(Adobe「生成AIへのアプローチ」)。
- 学習データ:Adobe Stockなどの使用許諾を受けたコンテンツと、著作権の切れたコンテンツを使用し、Webから収集したコンテンツは使っていない
- ユーザーのコンテンツ:Fireflyの学習に、ユーザーのコンテンツが使われることはない
- 商用利用:安心して商用利用できるよう設計している
- パートナーモデル:Adobe以外のモデルを使う場合は、そのことを明示する
法人向けFAQでは、Fireflyの出力は顧客のコンテンツとして扱われ、Adobeは出力に知的財産権を主張しないこと、クライアント案件での利用も可能であることが示されています。一方で、出力を使って別のAIモデルを学習させることは禁止されています(同FAQ、Adobe Generative AI Product Specific Terms)。
注意したいのは、Fireflyのアプリの中でAdobe以外のモデル(パートナーモデル)も選べるようになっている点です。規約では、第三者が開発したモデルの利用には「サードパーティのサービス」に関する条項が適用されるとしています。学習データの方針もIP補償も、Adobe自身のFireflyモデルの話だと切り分けてください。基本操作や機能の使い分けはAdobe Fireflyの使い方の記事にまとめています。
「学習データがクリーン」であることと、「出力が他人の作品に似ない」ことは別の話です。プロンプトや参照画像の入れ方しだいで、既存の作品や商標に似た出力が出る可能性は残ります。Adobeの規約も、第三者の商標や権利のある素材を、権利なく入力してはならないと定めています。
FireflyのIP補償|対象プラン・機能・条件.
2026年4月23日発効のAdobe Generative AI Product Specific Termsの第8条が、FireflyのIP補償(Firefly Output Indemnification)を定めています。要点は次のとおりです。
| 項目 | 規約の内容(要約) |
|---|---|
| 対象となる契約 | Creative Cloud for teams または Creative Cloud for enterprise の顧客で、補償付きのプラン(Creative Cloud Pro Plus、Creative Cloud, Edition 4)を購入していること |
| 対象となる出力 | Fireflyの製品説明に列挙された<strong>対象機能</strong>を、列挙された<strong>対象の画面(サービス・ソフトウェア)</strong>で使って生成し、対象プランの利用者が<strong>書き出し</strong>を行った出力 |
| 対象となる請求 | 出力の利用が第三者の<strong>著作権・商標権・パブリシティ権・プライバシー権</strong>を直接侵害するという請求 |
| Adobeが行うこと | 請求に対する防御と、判決で確定した、またはAdobeが署名した和解で合意した賠償等の支払い |
| 上限 | 1つの出力または1つの請求(関連する一連の請求)あたり<strong>US$1万</strong> |
| 期間の制限 | <strong>規約(契約)の有効期間中</strong>に受けた請求が対象(解約後の請求は対象外になり得る)。また、原因となった出来事から<strong>2年以内</strong>に手続きを始める必要がある |

「書き出し」が条件になっている意味
規約では、対象プランで登録された利用者が、対象の画面で出力について行う操作を「Export Event(書き出し)」と定義し、書き出しの後に提供された出力を補償の対象としています。誰が、どのアカウントで、どこから書き出したかが問われるということです。個人契約のアカウントで作った素材を、会社の対象プランのアカウントに持ち込んでも、条件を満たすとは限りません。
対象機能・対象の画面は「一覧」で決まる
どの機能・どのアプリやWebサービスが対象かは、Fireflyの製品説明(Product Description)に一覧があり、Adobeが随時更新するとされています。2024年の法人向けFAQでは、対象を「画像を生成する、一般提供(GA)されたFirefly機能」と説明しています。ベータ版の機能は一般提供前のため、補償の対象と考えないほうが安全です。
また、Adobeのパートナーモデルに関する法務ページでは、Adobe以外が学習させたモデルによる機能は、FireflyのIP補償(第8条)の対象外であると説明されています。ただし、Adobeが一覧で指定した一部のパートナーモデルについては、別の条件で限定的な補償が設けられています(Creative Partner Model Supplemental Coverage)。この補償は、それを明記したプラン(SKU)だけに適用され、対象は改変していない出力が特許・著作権などの権利を侵害するという請求に限られます。他の素材との組み合わせや、商取引での利用にもとづく商標の請求は除外されており、Firefly本体の補償より対象が狭い点に注意してください。自社の契約に含まれているかは、営業担当や契約書で確認してください。
除外条件と上限|読み落としやすいポイント.
補償の規定で最も重要なのは、対象範囲よりも除外条件です。規約の第8.3条は、次のいずれかから生じた請求について、Adobeは責任を負わないとしています。
- 出力の改変(Adobeのサービスやソフトウェアを使った改変を含む)
- 出力と、他の素材・コンテンツ・情報との組み合わせ
- 規約に違反する出力の利用
- Adobeが使用中止を指示した後の利用
- テキスト以外の入力(参照画像など)にもとづく出力で、その入力自体が侵害の原因となる場合
- 出力が使われる文脈
- 画面に表示・再生される内容以外のもの(ファイルのメタデータなど)
さらに、請求を知ったら速やかに書面で通知する、防御に協力する、防御と和解の主導権をAdobeに委ねる、Adobeの同意なく請求を認めない、といった手続き上の条件もあります(第8.3.2条)。
実務への影響
- レタッチや合成:Photoshopで加工した、ロゴやコピーと組み合わせてバナーにした、という部分から生じた請求は除外されます。広告の完成物は、ほぼ例外なく加工や組み合わせを経ているため、補償が及ぶのは「生成されたそのままの部分」に関する請求と考えるのが現実的です
- 参照画像:他社の画像を参照画像として入れて生成した場合、その画像に起因する請求は対象外です。参照画像には、自社が権利を持つ素材だけを使ってください
- 上限:上限は1出力または1請求あたりUS$1万です。広告の差し替えや再出稿にかかる費用は、そもそも補償の対象ではありません
なお、2024年の法人向けFAQでは、既存の契約にある知的財産の請求に関する責任制限を適用すると説明していましたが、2026年4月の規約(第8.4条)は、他の契約にかかわらずUS$1万を上限と定めています。個別の契約の条件は、契約書を法務部門と一緒に確認してください。
補償の条件は「何で作ったか」の記録がなければ主張できません。少なくとも、契約プラン、利用したアカウント、機能名(モデル名)、生成日時、書き出しの記録、使った参照画像を、制作物ごとに残しておくことをおすすめします。
他社の補償制度と比較する.
IP補償はAdobeだけの制度ではありません。主要な提供元の制度を、公式の発表や規約で確認できた範囲で並べます。名称や対象は改定されることがあるため、契約時には必ず最新の規約を確認してください。

Microsoft|Customer Copyright Commitment
Microsoftは2023年9月に、有償の商用Copilotサービスの利用者が著作権侵害で訴えられた場合に、防御し、不利な判決や和解の金額を支払うと発表しました。条件は、製品に組み込まれたガードレールやコンテンツフィルターを使い、侵害する素材を生成しようとしていないことです。同年11月にCustomer Copyright Commitmentと改称し、Azure OpenAI Serviceにも広げています(Microsoft On the Issues(2023年9月7日、2024年1月追記))。Azure OpenAIでは、著作権侵害を防ぐシステムメッセージの設定や、第三者コンテンツの出力を検出するテストの実施と報告書の保存など、必須の対策を実装していることが条件です(Microsoft Learn)。
Google Cloud|学習データと生成出力の2本立て
Google Cloudは2023年10月に、生成AIについて2つの補償を発表しました。1つは、Googleがモデルの学習にデータを使ったことが第三者の知的財産権を侵害するという請求への補償、もう1つは、利用者の生成した出力が侵害するという請求への補償です。後者は、利用者が意図的に他人の権利を侵害する目的で出力を作ったり使ったりしていない場合に限られます(Google Cloud Blog(2023年10月13日))。生成出力の補償の対象サービスは一覧で公開されており、2026年4月22日版の一覧では、Gemini・Imagen・Veo などの一般提供版を使うAPI、Gemini Enterprise、Gemini in Workspace、Google Vids などが挙がっています(Google Cloud Generative AI Indemnified Services)。
OpenAI|Copyright Shield
OpenAIは2023年11月の開発者向けイベントで、ChatGPT Enterpriseと開発者向けプラットフォームの一般提供機能を対象に、著作権侵害の請求を受けた利用者を防御し費用を負担する「Copyright Shield」を発表しました。2023年11月時点の規約では、侵害を知っていた・知り得た場合、OpenAIの安全機能を無効化した場合、出力を改変・他と組み合わせた場合、入力の権利がなかった場合、商取引での出力の利用にもとづく商標権侵害の請求などが除外とされています(DevelopersIOによる規約の解説(2023年11月))。最新の条件は、OpenAIの契約書で確認が必要です。
Getty Images|自社ライブラリで学習した生成AI
Getty Imagesは2023年9月に、自社のクリエイティブライブラリだけで学習した生成AIサービスを発表しました。発表時は上限のない補償を含むと説明していました(Getty Images プレスリリース(2023年9月25日))。現在の日本語サイトでは、お試しプランの生成画像には画像1点あたり最大US$5万の法的保護が付き、上限のない保護はカスタム(エンタープライズ)プランの利点として案内されています(Getty Images「生成AI」紹介ページ)。
| 比べる観点 | 読み方 |
|---|---|
| 対象サービス | 同じ会社でも、補償の対象は一部のサービス・プランに限られる。自社が使う画面・APIが一覧に入っているかを見る |
| 対象となる請求 | 著作権だけか、商標・パブリシティ権も含むか。Adobeは商標・パブリシティ権も対象に含め、OpenAIは商用利用にもとづく商標の請求を除外している |
| 利用者の義務 | MicrosoftやOpenAIは安全機能の利用、Googleは意図的な侵害でないことなど、利用者側の条件がある |
| 上限 | Adobeは1出力・1請求あたりUS$1万。Getty Imagesは1点あたり最大US$5万(上限なしはカスタムプランのみ)。その他は契約ごとの責任制限を確認 |
補償があっても防げないリスク.

補償の有無は、ツール選びの判断材料の一つにすぎません。補償があっても、次のようなリスクは残ります。
- 法的請求にならない批判:既存の作品やキャラクターに「似ている」という指摘がSNSで広がれば、法的な請求がなくても公開を取り下げることになり得ます。その損失は補償の対象外です
- 加工・組み合わせの部分:完成した広告の多くは加工や組み合わせを経ています。人が手を入れた部分のリスクは、人が確認するしかありません
- 表示や人物の問題:実物と異なる見せ方(景品表示法)や、実在の人物に似た人物の扱いは、使われ方の問題として別に確認が必要です
- 記録不足:どの条件で作ったかを示せなければ、補償を主張すること自体が難しくなります
公開前の類似チェックの手順はAI画像の著作権確認方法の記事、侵害が認められた場合に何が起きるかは生成AIと著作権侵害の損害賠償の記事で解説しています。
Fireflyを補償つきで使うためのチェックリスト
Checklist- 自社の契約が、補償付きの対象プランであることを契約書で確認した
- 制作に使うアカウントが、対象プランで登録された利用者のものである
- 使う機能が製品説明の対象機能に入っており、ベータ版やパートナーモデルではない
- 参照画像には、自社が権利を持つ素材だけを使っている
- プロンプトや入力に、他社の商標・作品名・実在の人物名を入れていない
- プラン・アカウント・機能名・生成日時・書き出しの記録を残している
- 加工・合成した部分は、補償とは別に人の目で類似チェックをしている
- 請求を受けたときの社内の連絡先と、Adobeへの通知の手順を決めている
よくある質問.
Q個人向けのFireflyプランで作った画像にも補償はありますか?
QFireflyのアプリで、Google や OpenAI のモデルを選んで生成した画像はどうなりますか?
QPhotoshopの生成塗りつぶしで一部を加工した場合はどうなりますか?
Q補償があるなら、公開前の類似チェックは省略してもよいですか?
Q制作会社に発注する場合、補償はどう扱えばよいですか?
まとめ|補償は「条件つきの備え」として使う.
- IP補償は、第三者からの請求に対して提供元が防御と賠償を引き受ける契約上の約束。侵害しないことの保証ではない
- FireflyのIP補償は、対象プラン・対象機能・対象の画面・書き出しの条件をすべて満たした出力にだけ効く
- 改変・組み合わせ・文脈などから生じた請求は除外され、1出力または1請求あたりUS$1万の上限がある(2026年4月23日発効の規約)
- Microsoft・Google・OpenAI・Getty Imagesにも補償制度があるが、対象・請求の種類・利用者の義務・上限はそれぞれ違う
- 補償があっても、批判による施策の停止や作り直しの費用は残る。類似チェックと生成記録は欠かせない
参考にした一次情報:Adobe Generative AI Product Specific Terms(2026年4月23日発効) / Adobe Firefly Legal FAQs for Enterprise Customers(2024年5月10日) / Adobe「生成AIへのアプローチ」 / Microsoft Learn「Customer Copyright Commitment Required Mitigations」 / Google Cloud Generative AI Indemnified Services / Adobe Creative Partner Model Supplemental Coverage / Getty Images 生成AI紹介ページ
※ 本記事は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。個別の案件については弁護士等の専門家にご確認ください。記載は2026年10月時点の情報です。
自社の制作フローで、どのツールをどの契約で使えば補償と確認を両立できるかを整理します.


