この記事でわかること
- 「学習段階」と「生成・利用段階」を分けて考える理由と、商用利用で問われるのはどちらか
- 著作権侵害の判断基準である「類似性」と「依拠性」が、生成AIではどう扱われるか
- 侵害が認められた場合に起こりうること(差止・損害賠償・刑事罰)
- AI生成物に著作権が発生するのはどんな場合か、それが商用利用にどう効くか
- 広告・販売物・納品物に使う前の5段階の確認フロー
生成AIの出力を商用利用してよいかは、①生成・利用段階で既存の著作物との「類似性」と「依拠性」がないか、②AI生成物そのものに著作権が発生するか、の2点で判断します。前者は公開前の類似チェックと生成記録で、後者は契約での取り決めで備えるのが実務的です。
商用利用で問われるのは「生成・利用段階」.
生成AIと著作権の関係について、国の考え方として最もよく参照されるのが、文化審議会著作権分科会法制度小委員会がとりまとめた「AIと著作権に関する考え方について」(2024年3月15日)です(以下「考え方」)。法的な拘束力はありませんが、法学者や弁護士などの有識者で構成される審議会が、現行法の解釈を整理したものです。
「考え方」はまず、「AI開発・学習段階」と「生成・利用段階」を分けて考える必要があるとしています。2つの段階では、行われている利用行為も、関係する条文も違うからです。さらに、AI生成物が「著作物」にあたるかどうかも、別の問題として切り分けています。
- 学習段階:著作物を集めて学習用データにし、モデルを開発する段階。主にAI開発事業者の問題
- 生成・利用段階:AIで画像などを生成し、SNSに公開したり、複製物を販売したりする段階。主にAI利用者の問題
- AI生成物の著作物性:できあがった生成物に著作権が発生するかどうか
広告に使う、商品パッケージに載せる、クライアントに納品する。こうした商用利用は、いずれも生成・利用段階の行為です。企業の担当者がまず押さえるべきなのは、この段階のルールだと考えてください。

「生成できた」と「公開してよい」は別の話
文化庁の「AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」(2024年7月31日)は、生成と利用で判断が異なりうる点に注意を促しています。個人が私的使用の目的で生成する場合(著作権法30条1項)や、企業内で権利者の許諾を得て利用することを前提に検討の過程で生成する場合(同法30条の3)は、その範囲内であれば許諾なく行えます。一方、インターネットでの配信や複製物の譲渡といった利用は、権利制限規定の範囲外になる場合が多いとされています。
社内の企画会議用に作ったラフ案をそのまま広告に転用する、という流れは現場でよく起こります。転用する時点で判断の前提が変わる、と覚えておいてください。
学習段階のルールは、利用者に何を意味するか.
学習段階の中心になるのは著作権法30条の4です。著作物に表現された思想や感情を「享受」することを目的としない利用(非享受目的の利用)は、原則として著作権者の許諾なく行えます。AIの学習のための著作物の収集・複製は、この典型例とされています。
ただし、どんな学習でも許されるわけではありません。「考え方」では、次のような場合に30条の4が適用されないと整理しています。
- 享受目的が併存する場合:たとえば、特定のクリエイターの少量の作品群だけを使い、その作品群に共通する創作的表現を出力させることを目的とした追加学習(意図的な「過学習」など)
- 著作権者の利益を不当に害する場合:たとえば、情報解析用に有償で提供されているデータベースの著作物を、対価を払わずに複製する場合
利用者が確認しておきたい2点
学習段階の適法性は、第一義的には開発事業者の問題です。それでも商用利用する側にとっては、次の2点が実務に直結します。
- どんなデータで学習したモデルか:チェックリスト&ガイダンスは、利用者が学習済みモデルに関する情報や利用規約をあらかじめ確認しておくことが望ましいとしています。学習データに関する情報は、後で依拠性を争うときの材料にもなります
- 特定作家を狙った追加学習モデルを使っていないか:特定の作家の作品だけで追加学習したモデル(LoRAなど)は、出力に創作的表現が直接感じ取れれば、生成・利用段階でも侵害になりうるとされています
なお、著作権法は「アイデア」を保護しないため、作風や画風が共通するだけなら著作権侵害にはならないというのが「考え方」の整理です。ただし、アイデアと創作的表現の境目はケースバイケースで判断されるため、「〇〇風」なら必ず安全という意味ではありません。ツール選定の観点は商用利用で安全な画像生成AIの選び方で詳しく解説しています。
侵害かどうかは「類似性」と「依拠性」で決まる.
生成・利用段階で生成物を公開したり販売したりする場合、侵害になるかどうかはAIを使わない通常の制作物と同じ基準で判断されます。具体的には、次の2つがそろい、かつ権利制限規定の対象外であれば、既存の著作物の著作権侵害になります(文化庁「考え方」概要)。
- 類似性:既存の著作物と創作的表現が共通していること。判例上は、既存の著作物の「表現上の本質的な特徴を直接感得できる」かどうかで判断されてきました
- 依拠性:既存の著作物をもとにして作ったこと
逆にいえば、どちらか一方でも欠ければ侵害にはなりません。商用利用前の確認は、この2つの要件をそれぞれつぶしていく作業だと考えると整理しやすくなります。

生成AIで変わるのは「依拠性」の考え方
人が描く場合、依拠性は「その作品に接する機会があったか」などから推認されてきました。生成AIの場合は、利用者が知らない作品をAIが学習している可能性があるため、「考え方」は次のように整理しています。
| 状況 | 依拠性の考え方 | 商用利用での意味 |
|---|---|---|
| 利用者が既存の著作物を認識していた | 依拠性が認められる。i2i(image-to-image:画像を入力して新しい画像を生成する方式)で既存画像を入力した、作品名などの固有名詞をプロンプトに入れた場合は、認識していたことを推認させる事情になる | 既存作品を指名するプロンプトは、商用では使わない |
| 既存の著作物が学習データに含まれていた | 利用者が認識していなくても、通常は依拠性が推認される | 「知らなかった」だけでは依拠性を否定しにくい |
| 学習データに含まれていたか不明 | 権利者がアクセス可能性や高度な類似性を立証すれば、依拠性が推認されうる | 高度に似た出力は、出所にかかわらず使わない |
| 学習データに含まれていなかった | 類似しても偶然の一致として、依拠性は認められないと考えられる | 学習データの情報開示があるモデルは説明材料になる |
「AIが勝手に似せただけ」という言い分は、依拠性の判断ではあまり助けになりません。だからこそ、商用利用では「似ていないことを確認した」という事実と、その記録が重要になります。
侵害が認められたら何が起きるか.
「考え方」は、侵害が認められた場合に受けうる措置として、差止請求、損害賠償請求、刑事罰を挙げ、それぞれ要件が違うことを示しています(「考え方」)。
| 措置 | 要件 | 商用利用で想定される影響 |
|---|---|---|
| 差止請求 | 故意・過失の有無を問わない | 広告の出稿停止、商品の販売停止、生成物の廃棄など |
| 損害賠償請求 | 侵害者に故意または過失が必要 | 使用料相当額などの賠償。認識がなく過失もない場合は対象外とされる |
| 刑事罰 | 侵害者に故意が必要 | 認識がない場合は対象外とされる |
| 不当利得返還請求 | 認識がなかった場合でもありうる | 使用料相当額として合理的に認められる額などの返還 |
つまり、利用者が既存の作品を知らなかったとしても、差止めは受けうるということです。広告やパッケージは公開の範囲が広く、差し止められると差し替えや回収のコストが大きくなります。商用利用ほど「公開前に止める」仕組みの価値が高い、というのが実務上の結論です。
また、「考え方」は一定の場合に、利用者だけでなくAI開発事業者やサービス提供事業者が侵害の主体として責任を負う可能性にも触れています。ただし、生成AI自体が類似物を高頻度で生成するものでなく、利用者が類似物の生成を狙った指示をした場合は、事業者が侵害主体と評価される可能性は低くなるとされており、利用者側の指示の内容が問われることに変わりはありません。損害額の考え方や過去の事例は生成AIの著作権侵害と損害賠償で整理しています。
AI生成物に著作権は発生するか.
商用利用では、「自社の広告ビジュアルを他社にまねされたら止められるか」という逆向きの問題もあります。これはAI生成物の著作物性の問題で、侵害の問題とは別に考えます。
「考え方」によると、人がほとんど指示を与えず「生成」ボタンを押すだけでAIが自律的に生成したものは、著作物にあたらないと考えられます。一方、人が思想や感情を創作的に表現するための「道具」としてAIを使ったと認められれば、著作物にあたり、AI利用者が著作者になると整理されています。道具として使ったかどうかは、人の「創作意図」と「創作的寄与」の有無で判断されます。
| 判断要素 | 「考え方」の整理 |
|---|---|
| 指示・入力の分量 | 創作的表現を具体的に示す詳細な指示は、創作的寄与があると評価される可能性を高める。長いプロンプトでも、アイデアを示すにとどまれば影響しない |
| 生成の試行回数 | 回数が多いこと自体は影響しない。生成物を確認しながら指示を修正して試行を繰り返す場合は、著作物性が認められる場合もある |
| 複数の生成物からの選択 | 単に選ぶだけでは影響しない。ただし選択が創作行為の要素になる場合もあり、個別に考慮が必要 |
| 人による加筆・修正 | 創作的表現といえる加筆・修正をした部分には、通常、著作物性が認められる |
実際に、2025年11月には、生成AIで制作された画像を無断で複製して書籍の表紙に使ったとして、千葉県警が著作権法違反の疑いで男性を書類送検したと報じられました。県警は、画像が生成AIに具体的な指示を繰り返して制作されたことから著作物にあたると判断したとされ、AI生成画像の著作権を理由とする摘発は全国初とみられています(共同通信配信・熊本日日新聞 2025年11月20日)。ただし、これは捜査機関の判断であり、裁判所が著作物性を認めた事例ではない点に注意が必要です。
商用利用で効いてくるのは「独占できるか」
著作物性が認められなければ、同じような表現を他社が使っても著作権では止められない可能性があります。ロゴやキービジュアルなど、独占的に使いたい制作物ほど、AI出力をそのまま使わず人の手で仕上げる、商標登録を検討する、契約で権利の扱いを定める、といった手当てが必要です。権利の帰属の詳しい論点はAI生成物の著作権は誰のものかをご覧ください。
なお、著作物性の問題と侵害の問題は別々に判断されます。AI生成物に著作権が認められる場合であっても、既存の著作物との類似性と依拠性が認められれば、その生成や利用は既存の著作物の著作権侵害になりうる点に注意してください。
商用利用前の確認フロー|広告・販売物・納品物.
ここまでの整理を、公開・納品前に担当者が確認する順番に並べ直すと、次の5段階になります。著作権法の判断に入る前に、まず契約条件(Q1)を確認し、最後に記録と契約(Q5)で締めるのがポイントです。

契約プランと規約を確認する
商用利用の可否、クレジット表記、禁止用途はベンダーの規約で決まります。ここがNOなら著作権の検討に進む意味がありません。
プロンプトと入力素材を見直す
既存の作品名・作家名・キャラクター名、他社の画像や文章を入力していないかを確認します。入力していた場合は、依拠性が認められやすいため作り直しを検討します。
類似チェックを行う
画像検索・文章検索で、似ている既存の著作物がないかを探します。チェックリスト&ガイダンスも、利用に先立ってインターネット検索などで類似していないか確認することを求めています。具体的な手順は別記事で解説しています。
著作権以外の権利を確認する
実在の人物に似ていないか(肖像権・パブリシティ権)、他社のロゴや商標が写り込んでいないか、実物と異なる表示になっていないか(景品表示法)を確認します。
記録を残し、契約に書く
生成日時・ツール・モデル・プロンプトを保存します。納品物では、AIを使ったこと、権利の扱い、第三者の権利を侵害しないことの保証範囲を契約や納品書で明確にします。
| 用途 | とくに注意する点 | 追加でやること |
|---|---|---|
| 広告(Web・SNS・紙) | 公開範囲が広く、差止めになると差し替えコストが大きい | 出稿前に類似チェックの結果を社内で承認する |
| 販売物(商品・パッケージ・書籍) | 複製物の譲渡にあたり、在庫の回収・廃棄が問題になりうる | 量産前に確認し、版ごとに生成記録をひもづける |
| 納品物(受託制作) | クライアントが二次利用する範囲まで責任を問われうる | AI利用の開示、権利帰属、保証範囲を契約書に明記する |
広告での具体的な使い方や表示ルールは生成AIを広告に使うときのポイント、文章の引用ルールは生成AIと引用のルール、人物の肖像や声の扱いはAI音声と肖像権の解説記事もあわせてご覧ください。
公開・納品前の最終チェック
Checklist- 契約中のプランで商用利用が認められていることを確認した
- プロンプトに既存の作品名・作家名・キャラクター名・ブランド名を入れていない
- 既存の画像や文章をi2iなどで入力していない(入力した場合は許諾を確認した)
- 画像検索・文章検索で類似物がないことを確認し、結果を記録した
- 実在の人物・他社ロゴ・商品デザインに似ていないことを確認した
- 生成日時・ツール・モデル・プロンプトを保存した
- AI利用の有無と権利の扱いを、クライアントや社内の承認者と共有した
よくある質問.
Qツールの規約で「商用利用OK」なら、著作権の確認は不要ですか?
Q既存作品を知らずに、たまたま似た画像が出た場合も侵害になりますか?
Q「〇〇風」の画像を広告に使うのは問題ありますか?
QAIで作った画像に自社の著作権は発生しますか?
Qクライアントへの納品物にAIを使うとき、契約で何を決めればよいですか?
まとめ|商用利用の可否は「段階」と「2つの要件」で判断する.
- 商用利用は生成・利用段階の問題。生成が適法でも、公開・販売・納品まで適法とは限らない
- 侵害は類似性と依拠性がそろったときに成立しうる。生成AIでは、学習データに含まれていれば知らなくても依拠性が推認されうる
- 故意・過失がなくても差止めは受けうる。商用ほど公開前の類似チェックが効く
- AI生成物の著作物性は創作意図と創作的寄与で決まる。独占したいものは人の手と契約で補う
- 確認は規約 → 入力 → 類似 → 他の権利 → 記録と契約の順で行う
参考にした一次情報:文化審議会著作権分科会法制度小委員会「AIと著作権に関する考え方について」(2024年3月15日) / 文化庁著作権課「同【概要】」 / 文化庁「AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」(2024年7月31日) / 文化庁「AIと著作権について」 / e-Gov法令検索「著作権法」
※ 本記事は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。個別の案件については弁護士等の専門家にご確認ください。記載は2026年10月時点の情報です。
生成AIの出力を広告・納品物に使うときの確認フローと社内ルールづくりを、実案件ベースで支援します.
