この記事でわかること
- 「導入したのに使われない」状態が起きる理由と、調査から見える課題
- 企画・マーケ・営業・広報・人事・クリエイティブの部門別の使い方
- 部門をまたいで使える、共通プロンプトの型
- 勉強会・プロンプト共有・推進役・事例の横展開という4つの定着の仕組み
- 利用率・削減時間・品質・再投下先で見る効果測定の方法
生成AIの社内活用は、ツールを配った時点ではまだ半分です。部門ごとに「最初にAIに任せる仕事」を具体的に決め、共通のプロンプトの型を配り、勉強会・プロンプト共有・推進役・事例の横展開という4つの仕組みを常設すると、一部の人だけが使う状態から抜け出しやすくなります。効果は利用率だけでなく、削減時間と「浮いた時間を何に使ったか」まで測ります。
なぜ「導入したのに使われない」のか.
導入の全体像(目的設定から全社展開までの5ステップ)は生成AIの企業導入の進め方の解説記事で、ルールづくりは社内ガイドラインの作り方の解説記事で詳しく紹介しています。本記事はその先、現場の一人ひとりが使い続ける状態をどうつくるかに絞ります。
個人の利用状況については、パーソル総合研究所が2026年2月に公表した「生成AIとはたらき方に関する実態調査」が参考になります。全国の就業者のうち業務で生成AIを使っている人は32.4%。さらに、本調査(正規雇用者3,000人)の利用者のうち、実際に業務時間が減った人は約25.4%にとどまりました。使わない人の理由として上位に挙がったのは、「必要性を感じない」「使い方がわからない」「どの業務で使えるかイメージできない」です。
一方で同じ調査では、10項目で測った「生成AI成熟度」が高い群は、低い群に比べて利用用途の幅が約2.2倍、削減時間が約2.3倍という結果も出ています。ツールの性能だけでなく、「どの業務で、どう使うか」を組織として見せられているかが差につながっている可能性があります(編集部の見立て)。

調査の数字は分母に注意して読んでください。32.4%は全国の就業者全体(スクリーニング調査、n=19,855)に占める業務利用者の割合、25.4%は本調査(正規雇用者3,000人が対象)の生成AI利用者に占める「業務時間が減った人」の割合で、就業者全体に占める割合ではありません。
「使い方がわからない」「どの業務で使えるかイメージできない」という理由は、裏返せば具体的な使い方を見せれば解消できるということです。次の章から、部門別の具体例を見ていきます。
部門別の使い方|まず任せる仕事を決める.
部門別の使い方を考えるときの原則は1つです。「下書き・たたき台・整理」はAIに、「判断・確認・最終表現」は人に。この線を部門ごとに具体的な業務名で引いておくと、社員は迷わずに使い始められます。

企画|「数を出す」と「整理する」に使う
企画職でいちばん効果を感じやすいのは、アイデアの量を増やす使い方です。「ターゲット」「解決したい課題」「制約(予算・期間)」を渡して30案出させ、人が3案に絞り込みます。競合サービスの公開情報の整理や、企画書の章立て案にも向きます。ただし、AIが挙げた市場データや事例は誤りが混ざることがあるため、数字と固有名詞は必ず一次情報で確認します。
マーケティング|バリエーションと分析の下ごしらえ
広告コピーやメール件名のバリエーション、ペルソナ案の作成、アンケートの自由回答の分類などに使えます。自由回答を「不満」「要望」「称賛」に分けて件数を数える、といった作業は時間短縮の効果が大きい領域です。効能や数値をうたう表現は景品表示法などの観点から人が確認してください。
営業|初稿づくりと商談の振り返り
提案書の初稿、商談メモの要約、お礼メールや日程調整の文面などが定番です。営業部門で使う場合に最初に決めるべきなのは、顧客名や取引条件を入力してよいかどうかです。
広報|構成案と想定問答
プレスリリースの構成案、見出し案、記者からの想定問答、SNS投稿文の案づくりに向きます。広報の文章は公表後に訂正が難しいため、事実関係の裏取りと公表タイミングの判断は必ず人が行います。AIに「この原稿で誤解を招きそうな表現を指摘して」と頼み、チェック役として使うのも効果的です。
人事|社内向け文書と準備作業
求人票の下書き、研修資料の構成、社内FAQの整備などが代表例です。LINEヤフーは2026年2月、人事総務部門で面接官トレーニングAIや面接日程調整の自動化など、2026年春までに10件のAIツールを順次運用開始し、人事総務部門全体で月約1,600時間以上の工数削減を見込むと発表しました。同社は、AIの出力は参考情報の1つとして扱い、最終的な判断・対応は必ず人が行うとしています。採用や評価に関わる判断をAIに任せないことは、どの企業でも守るべき線です。
クリエイティブ|ラフとバリエーション
構図案やラフ、絵コンテ、色やコピーのバリエーション出しなど、最終成果物に直接出ない工程から使うと安全に効果を出せます。社外に出す画像や動画は、利用ツールのプラン条件と、既存作品への類似を確認してから使います。確認の手順はAI画像の著作権確認方法の解説記事、ツール選びは商用利用で安全な画像生成AIの選び方を参照してください。
部門をまたいで使える「プロンプトの型」.
プロンプト(AIへの指示文)の書き方を社員それぞれに任せると、上手な人とそうでない人の差が広がります。そこで、全社で1つの型を決めて配るのがおすすめです。型があると、他の人のプロンプトを読んで再利用しやすくなり、後で紹介するプロンプト共有も回りやすくなります。
下の型は、役割・目的・前提・条件・出力形式の5つの欄を埋めるだけのシンプルなものです。各要素の考え方やBefore/Afterの例はプロンプトの書き方の解説記事で詳しく解説しています。
# 役割 あなたは【部門・職種】の実務に詳しいアシスタントです。 # 目的 【何のために】【何を】作りたい。(例:来週の商談で使う提案書の骨子) # 前提 - 読み手:【誰が読むか】 - 背景:【状況・これまでの経緯】 - 参考資料:【貼り付ける場合は社外秘情報を含めない】 # 条件 - 分量:【◯字以内/◯案】 - トーン:【ですます調/箇条書き中心 など】 - 入れてはいけないこと:【未確認の数字、他社名 など】 # 出力形式 【見出し+箇条書き/表(列:◯◯・◯◯)】 最後に「人が確認すべき点」を3つ挙げてください。
型を「業務名」で増やしていく
共通の型ができたら、「議事録の要約」「提案書の骨子」「求人票の下書き」のように、業務名をつけた派生テンプレートを部門ごとに作ります。社員が探すときは「プロンプトの書き方」ではなく「今やりたい業務」で探すからです。
定着させる4つの仕組み.
使い方を見せ、型を配っても、それだけでは数か月で利用が落ちることがあります(編集部の見立て)。国内企業の公表事例には、学ぶ・借りる・聞く・真似るための場を設けている企業が見られます。

1. 社内勉強会|基礎は必須、応用は部門別に
LINEヤフーは2025年7月、全従業員約11,000人を対象に業務での生成AI活用の「義務化」を前提とした働き方を始めると発表しました。全従業員にリスク管理やプロンプト技術に関する必須のeラーニングを行い、試験合格を生成AIの利用条件にしています。ルールと基礎を全員がそろえてから使い始める設計です。
応用編は、部門別・業務別に分けたほうが効果的です。研修の時間内に自分の業務で実際に1本作ってみる演習を入れると、「どの業務で使えるかイメージできない」という壁を越えやすくなります。
2. プロンプト共有|「借りられる場所」を作る
GMOインターネットグループは、AIに関するグループ内ポータルサイト「GMO Genius」を立ち上げ、プロンプトやGPTs(ChatGPT上で目的別に作るカスタムAI)の共有を行っています。ソフトバンクでは、全社員が「1人100個のAIエージェント」を作る取り組みの中で、作ったAIエージェントが社内のコミュニケーションツールで次々と共有されたと紹介されています。
共有の場をつくるときは、業務名で探せることと作った人の名前が残ることを意識します。誰が作ったかがわかると質問しやすくなり、投稿した人の励みにもなります。
3. 推進役(アンバサダー)|隣で聞ける人を置く
LINEヤフーは部門内で生成AIの活用を促す「生成AI活用推進者」を全部署に設置しています。日立製作所は2025年1月、生成AIの開発・活用のエキスパート16名を「GenAIアンバサダー」に任命しました(日立のアンバサダーは社外への発信も役割に含みます)。
推進役は、必ずしもAIに一番詳しい人である必要はありません。自部門の業務をよく知っていて、相談しやすい人が向いています。本業と兼務になることが多いため、月に何時間を推進活動に使ってよいかを公式に決めておかないと、続かなくなりがちです。
4. 成功事例の横展開|コンテストと共有会
GMOインターネットグループは2023年4月から、賞金総額1,000万円の社内公募コンテスト「AI(愛)しあおうぜ!ChatGPT業務活用コンテスト」を実施しています。コンテストは、埋もれていた使い方を集める仕組みとして機能します。ソフトバンクの法人統括 カスタマーサクセス本部では、自己評価のアセスメント(6段階)でメンバーのAIスキルを見える化し、社内コンテストでアイデアを募ったところ、116件のアイデアが投稿され、うち61件が生成AIに関するものだったと紹介しています。
集めた事例を他の部署に広げるときは、結果だけでなく「どの業務で・どのプロンプトで・何分短くなったか」を手順ごと渡すのがコツです。月1回の共有会で3事例ずつ紹介する、といった小さな定例でも十分です。
| 企業 | 主な仕組み | 公表されている内容 |
|---|---|---|
| GMOインターネットグループ | コンテスト、ポータル、育成プログラム、AIテスト | 2023年4月からの社内コンテスト、プロンプト共有ポータル「GMO Genius」、非エンジニア向け3か月の育成プログラム「虎の穴」、全パートナー受験必須の「GMO AIパスポート」 |
| LINEヤフー | 必須研修、推進者 | 全従業員約11,000人に必須のeラーニング、試験合格を利用条件に。全部署に生成AI活用推進者を設置 |
| ソフトバンク | 全社チャレンジ、共有 | 2025年6月から「1人100個のAIエージェント」作成。約2カ月半の8月末までに250万を超えるAIエージェントが作られた |
| 日立製作所 | アンバサダー | 2025年1月にGenAIアンバサダー16名を任命。ロールモデル・メッセンジャーの役割 |
4つの仕組みのうち、最初に1つだけ選ぶなら「推進役」をおすすめします。勉強会もプロンプト共有も、それを回す人がいなければ止まってしまうからです(編集部の見立て)。
効果測定|何を、どう測るか.
定着の度合いと効果は、次の4つの指標で見ると全体像をつかみやすくなります。
| 指標 | 測るもの | 測り方の例 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 利用率 | どれだけの人が使っているか | 月に1回以上使った人の割合(ツールの管理画面のログ) | 「使った」だけで成果とはいえない |
| 削減時間 | 業務がどれだけ短くなったか | 対象業務の所要時間を導入前後で比べる。定期アンケートで1人あたりの月間削減時間を聞く | 自己申告は多めに出やすい。一部の業務は実測で補う |
| 品質 | 成果物が良くなったか | 手戻りの回数、上長レビューでの修正件数、顧客アンケート | 時間だけ見ると品質低下を見逃す |
| 再投下先 | 浮いた時間を何に使ったか | アンケートで「浮いた時間の使い道」を聞く | ここを追わないと経営に成果を説明しにくい |
公表事例|定期調査で削減時間を追う
GMOインターネットグループは、グループ内の利用状況を定期的に調査し公表しています。2026年4月9日の発表では、国内パートナー(正社員・契約社員・アルバイト・派遣社員・業務委託を含む)を対象にした調査(有効回答5,353人、2026年3月9日〜13日)で、生成AIの業務活用率が97.8%(シフト勤務者を除く)、1人あたりの削減時間が月約53.9時間、グループ全体で月約35.2万時間でした。これらは社員への調査(アンケート)にもとづく数値です。
同じ指標を同じ聞き方で定点観測していることが、この事例の参考になる点です。前回の調査と比べることで、施策が効いているかを判断できます。
「浮いた時間」の行き先まで見る
パーソル総合研究所の調査では、生成AIで削減できた時間の61.2%が仕事に再投下され、その中心は日常業務(75.4%)でした。削減時間を報告するだけでは「時間は減ったが、成果は変わらない」と見られがちです。浮いた時間で企画や顧客対応を増やせたのかどうかまで追うと、経営への説明がしやすくなります。
対象業務を3つ決める
全業務を測ろうとすると続きません。部門ごとに頻度が高い業務を3つ選び、導入前の所要時間を記録します。
聞き方を固定する
アンケートの設問と選択肢を固定し、四半期ごとなど同じ間隔で聞きます。聞き方が変わると前回と比べられません。
ログと実測で補う
ツールの管理画面で利用率を確認し、自己申告の削減時間は一部の業務を実測して確かめます。
結果を事例とセットで返す
数字だけでなく、削減時間が大きかった使い方を社内に共有します。測定がそのまま横展開の材料になります。
よくある質問.
Q全社員に一斉に使わせるべきですか?部署を絞るべきですか?
Q推進役は誰に任せればよいですか?
Qプロンプト集を作っても使われません。どうすればよいですか?
Q使っている人と使わない人の差が開いています。
Q効果は自己申告のアンケートで測ってもよいですか?
Qクリエイティブ部門で使うときに追加で必要なことは?
まとめ|「配る」の次は「見せる・借りる・聞ける」.
- 個人の調査では、業務で生成AIを使う就業者は32.4%、本調査の利用者のうち業務時間が減った人は約25.4%。生成AI成熟度が高い群ほど用途の幅も削減時間も大きい
- 部門別に「まずAIに任せる仕事」と「人が残す仕事」を業務名で決める
- プロンプトは全社共通の型を1つ決め、業務名をつけた派生テンプレートで増やす
- 定着には勉強会・プロンプト共有・推進役・成功事例の横展開の4つの場を常設する
- 効果は利用率・削減時間・品質・再投下先で、同じ聞き方で定点観測する
参考にした一次情報:パーソル総合研究所「生成AIとはたらき方に関する実態調査」(2026年2月3日) / GMOインターネットグループ(2026年4月9日) / GMOインターネットグループ(2026年1月8日) / LINEヤフー(2025年7月14日) / LINEヤフー(2026年2月10日) / ソフトバンク ニュース(2025年12月4日) / ソフトバンク 法人向けブログ(2025年8月18日掲載) / 日立製作所(2025年1月21日)
部門別の使い方づくりから、勉強会・推進役の仕組みづくりまで、社内定着をご支援します.
