この記事でわかること
- 生成AIで商標のトラブルが起きる3つのパターン
- 商標権侵害の要件(商標としての使用・類否・指定商品役務)の考え方
- J-PlatPatで似た商標を調べる手順と、調べるときの注意
- AIで作ったロゴやネーミングを自社で商標登録するときのポイント
- 生成AIによる自社商標の悪用に、ブランド側がどう備えるか
AIで作ったロゴ・名前・画像を商品や広告に使う前に、①使う分野を決め、②J-PlatPatで似た商標を文字と図形の両方で調べ、③似たものがあれば作り直すか専門家に確認する、の3段階を踏むのが基本です。商標権の侵害は「似ているか」だけでなく、「商品やサービスの目印として使うか」「指定された商品・サービスに近いか」で判断されます。自社のロゴを守る側としては、登録と監視、見つけたときの対応手順をあらかじめ用意しておくことが大切です。
生成AIで商標トラブルが起きる3つのパターン.
生成AIと商標のトラブルは、大きく3つのパターンに分けられます。
1. ロゴ・シンボルが既存の商標に似る
画像生成AIは、学習した大量の画像の傾向から「それらしい」ロゴを作ります。業種名やモチーフを指定すると、その業界でよく見かける形・配色に寄りやすく、結果として既存のロゴに似た案が出ることがあります。
2. ネーミングが既存の商標と同じ・似ている
対話型AIに商品名やサービス名を考えさせると、覚えやすく自然な語が出てきます。自然な語であるほど、すでに誰かが登録している可能性も高くなります。AIは商標の登録状況を確認して提案しているわけではありません。
3. 画像の中に実在のロゴが紛れ込む
街並みや店頭、人物の服などを生成すると、看板や衣服に実在のブランドに似たマークや文字が描かれることがあります。海外では、Getty Imagesが画像生成AIの開発企業Stability AIを訴えた英国の裁判で、古いバージョンのモデルが同社やiStockの透かし(ウォーターマーク)に似た表示を含む画像を生成した点について、2025年11月4日の判決が商標権侵害を一部認めました。ただし判決は、この認定を「過去のもので、範囲は極めて限定的」と述べています(英国裁判所の判決ページ(Getty Images v Stability AI))。
ツール側も対策をとっています。たとえばAdobeの生成AI規約は、十分な権利なく第三者の商標を含む入力をしてはならないと定めています(Adobe Generative AI Product Specific Terms)。少なくともAdobeの規約では、権利なく他社の商標を入力することが禁じられています。
公開前の画像チェック全体(逆画像検索、生成ログ、来歴情報の確認など)は<a href="https://sac.epoch-inc.jp/magazine/articles/ai-image-copyright-check/">AI画像の著作権確認方法の記事</a>で解説しています。本記事では、そのうち商標に関わる部分を掘り下げます。
商標権侵害の要件|商標としての使用・類否・指定商品役務.
商標権は、特許庁に登録された商標について、登録の際に指定した商品・サービス(指定商品・指定役務)の範囲で、その商標を独占的に使える権利です(商標法25条)。指定商品・役務と同じか似た分野で、登録商標と同じか似た商標を使う行為も、侵害とみなされます(37条1号)。侵害かどうかは、次の3つの視点で考えます。

視点1|商標として使っているか(商標的使用)
商標法でいう「使用」には、商品やパッケージに付けることのほか、商品・サービスの広告に付けて見せたり、ネットで配信したりすることも含まれます(2条3項8号)。一方で、需要者(買い手)が「どこの会社の商品か」を見分ける目印として認識できない使い方には、商標権の効力が及びません(26条1項6号)。いわゆる商標的使用かどうか、という論点です。
たとえば、AIで作った広告画像の背景に、小さく他社ロゴらしきものが写り込んでいるだけなら、目印としての使用とはいえない場合もあります。しかし、自社商品のロゴやパッケージ、広告の主役として使うのであれば、まさに商標としての使用です。写り込みでも消しておくのが実務上は安全です。
視点2|商標が似ているか(類否)
商標が似ているかどうか(類否)は、一般に、見た目(外観)、読み方(称呼)、意味やイメージ(観念)を、取引の実情もふまえて総合的に判断します。文字が違っても読みが同じ、図形が違っても受ける印象が同じ、という場合は似ていると判断されうる点に注意が必要です。
視点3|商品・サービスが近いか
商標権は指定商品・役務の範囲で働くため、似た商標でも、まったく別の分野で使うなら侵害にならないことが多くなります。ただし、広く知られた他社の表示を使う場合は、不正競争防止法(周知な表示と混同させる行為を禁じる2条1項1号、著名な表示を使う行為を禁じる2条1項2号)の問題になることがあり、分野が離れていても安心はできません。
侵害すると何が起きるか
商標権者は、侵害の停止や予防、侵害品の廃棄などを求めることができ(36条)、損害賠償の請求も受けます(民法709条。損害額の推定は商標法38条)。故意の侵害には刑事罰もあり、商標権の侵害は10年以下の拘禁刑もしくは1,000万円以下の罰金、またはその両方と定められています(78条。侵害とみなされる行為は5年以下の拘禁刑等、78条の2)。広告の差し替えや商品の回収まで含めると、事業への影響は小さくありません。
J-PlatPatで似た商標を調べる手順.
登録商標は、独立行政法人 工業所有権情報・研修館(INPIT)が運営する無料のデータベースJ-PlatPatで調べられます。商標については「商標番号照会」「商標検索」「日本国周知・著名商標検索」「不登録標章検索」「商品・役務名検索」といった検索機能と、ロゴの図形を分類した資料「図形等分類表」が用意されています(INPIT「J-PlatPatについて」)。

使う分野(区分・類似群コード)を確認する
「商品・役務名検索」に、ロゴや名前を使う商品・サービス(例:化粧品、飲食店の提供、アプリ)を入れ、区分と類似群コード(似た商品・サービスをまとめたコード)を確認します。後の検索をこの分野で絞り込むと、結果が見やすくなります。
文字(読み方)で探す
ネーミングや、ロゴに含まれる文字は「商標検索」で調べます。表記の揺れ(カタカナ・英字・ひらがな)を変えて検索し、似た読み方の商標も含めて確認します。
図形で探す
ロゴのマークは、分類資料の「図形等分類表」でモチーフ(動物、植物、星、幾何学図形など)の分類を調べ、その分類と類似群コードを組み合わせて「商標検索」で絞り込みます。
周知・著名な商標も確認する
「日本国周知・著名商標検索」で、広く知られた商標に似ていないかも確認します。著名な商標は、分野が違っても問題になることがあります。
権利の状態と指定商品を確認し、記録する
見つかった商標が存続しているか、どの商品・サービスを指定しているかを確認します。検索日、検索条件、結果の画面を保存し、判断に迷うものは弁理士に相談します。
調べるときの注意
- 見つからない=安全ではない:出願中で公開前のもの、未登録だが広く使われている表示は、検索で見つからないことがあります。ネット検索やSNSでの確認も合わせて行います
- 海外で使うなら海外も:J-PlatPatは日本の権利が中心です。海外で展開する商品やサービスは、展開先の国の登録状況も確認が必要です
- AIの「問題ありません」を根拠にしない:対話型AIに商標の登録状況を尋ねても、データベースを確認した結果とは限りません。必ず一次情報で確認します

AIで作ったロゴを自社で商標登録するときの注意.
AIで作ったロゴやネーミングでも、商標登録の出願はできます。商標法は、その商標を誰がどう作ったかではなく、商品・サービスの目印として機能するか、他人の権利とぶつからないかを審査するからです。登録を目指すときは、次の点に注意します。
1. 目印として機能するか(識別力)
商品の普通名称や、品質・産地・効能などを普通に表しただけの商標は登録できません(3条1項)。AIは説明的で分かりやすい名前を出しがちなため、「分かりやすいが、登録はできない」名前になっていないか確認が必要です。
2. 先に登録された商標とぶつからないか
先に出願・登録された他人の商標と同じか似ていて、指定商品・役務も同じか似ている場合は登録できません(4条1項11号)。広く知られた他人の商標と同じか似ているもの(10号)、他人の商品・サービスと混同を生じるおそれがあるもの(15号)、国内外で広く知られた他人の商標と同一・類似で、不正の目的で使うもの(19号)も登録できません。なお現行法では、先の商標権者の承諾があり、混同のおそれもない場合に限って、似た商標の登録を認める仕組み(4条4項、いわゆるコンセント制度)もあります。
3. 他人の著作権とぶつからないか
商標登録ができても、そのロゴが他人の著作物に似ていて、出願より前に生じた他人の著作権と抵触する場合には、その部分について登録商標を使えません(29条)。AIで作ったロゴが既存のイラストやキャラクターに似ていないかは、商標の調査とは別に確認が必要です。AI生成物の著作権の扱いはAI生成物の著作権は誰のものかの記事で解説しています。
4. 制作の記録を残す
どのツールで、どんなプロンプトから、どう手を加えて仕上げたかを残しておくと、後から類似を指摘されたときの説明材料になります。ロゴのように長く使う資産は、AIの出力をそのまま使わず、デザイナーが仕上げる工程を入れると、独自性と説明可能性の両方が高まると考えられます(編集部の見立て)。
商標の出願では、どの商品・サービスを指定するか(区分の選び方)で、権利の範囲も費用も変わります。事業で長く使うロゴや名前は、出願前に弁理士へ相談することをおすすめします。
ブランド側の備え|生成AIによる自社商標の悪用.
立場を変えると、自社のロゴや商品名が、第三者の生成AIで勝手に使われるリスクもあります。たとえば、自社ロゴ入りの偽の広告画像、自社の商品パッケージに似せた偽物の画像、自社の社名やロゴをかたった偽サイトや詐欺広告などです。法務省の検討会の取りまとめでも、SNS等における肖像を使ったなりすまし広告が、パブリシティ権侵害の典型例の一つに挙げられています(法務省「肖像、声等の無断利用による民事責任の在り方に関する検討会」)。ブランド側は、次の4つで備えます。
| 備え | 具体的にやること | ポイント |
|---|---|---|
| 登録する | 主要なロゴ・商品名を、使う商品・サービスの区分で登録しておく。図形のロゴは文字とは別に登録を検討する | 登録がなければ、商標権にもとづく削除依頼や差し止めの根拠が弱くなる |
| 監視する | 自社名・商品名でのSNS検索、広告ライブラリの確認、画像検索を定期的に行う | 担当者と頻度を決める。見つけた日時と画面を保存する |
| 通報する | プラットフォームの知的財産権侵害の報告窓口から削除を求める。広告では、Google広告に商標の申し立ての仕組みがある | 商標の登録番号、権利者であることを示す資料を準備しておく |
| 知らせる | 公式サイトやSNSで、偽の広告やサイトへの注意を呼びかける。問い合わせ窓口を明示する | 顧客の被害を防ぐことが、ブランドの信頼を守ることにつながる |
Google広告の商標ポリシーでは、商標権者が、自社の商標を広告文で不適切に使っていると考える広告について申し立てができ、審査の結果、広告での商標の使用が制限されることがあると案内されています。一方で、キーワードとしての商標の使用は制限されないなど、対象には条件があります(Google 広告ポリシーヘルプ「商標」)。
生成AIを使ったなりすましや偽の動画への対策は、検知と対応の体制も含めてディープフェイク対策の記事で詳しく解説しています。社内で生成AIを使う側のルールとしては、社内ガイドラインの作り方の記事で、他社のブランド名をプロンプトに入れない、といった項目の文例を紹介しています。
ロゴ・ネーミング・画像を公開する前のチェックリスト
Checklist- プロンプトに他社のブランド名・商品名・ロゴの説明を入れていない
- 生成画像の看板・衣服・パッケージに、実在のロゴや文字が紛れ込んでいないか拡大して確認した
- 使う商品・サービスの区分と類似群コードを確認した
- J-PlatPatで、文字(読み方)と図形の両方から似た商標を調べた
- 周知・著名な商標に似ていないかも確認した
- 海外で使う場合は、展開先の国の登録状況も確認した
- 検索日・条件・結果と、生成のログを保存した
- 長く使うロゴ・名前は、出願と専門家への相談を検討した
よくある質問.
QAIが作ったロゴが他社の商標に似ていたら、AIの提供元の責任になりますか?
Q他社のロゴが画像の背景に小さく写り込んでいるだけでも、商標権侵害になりますか?
QJ-PlatPatで似た商標が見つからなければ、使っても大丈夫ですか?
QAIで作ったロゴは、商標登録できますか?
Q自社のロゴを使った偽の広告を見つけたら、まず何をすればよいですか?
まとめ|「似ていないか」と「何に使うか」をセットで確認する.
- 生成AIの商標リスクは、ロゴが似る・名前が重なる・画像にロゴが紛れ込むの3パターン
- 侵害は、商標としての使用・商標の類否・指定商品役務の近さの3つの視点で判断する
- 使う前に、J-PlatPatで分野を決めて、文字と図形の両方から調べる。見つからない=安全ではない
- AIで作ったロゴも商標登録できるが、識別力・先の商標・他人の著作権に注意する
- ブランド側は、登録・監視・通報・告知の4つで、生成AIによる悪用に備える
参考にした一次情報:商標法(e-Gov法令検索) / INPIT「J-PlatPatについて」 / Getty Images v Stability AI 判決(2025年11月4日) / Google 広告ポリシーヘルプ「商標」
※ 本記事は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。個別の案件については弁護士等の専門家にご確認ください。記載は2026年10月時点の情報です。
ロゴやネーミングにAIを使うときの確認手順と社内ルールを、実案件に合わせて整えます.
