この記事でわかること
- 大企業の生成AI活用事例8件(国内5件・海外3件)
- 業務効率化・商品企画・顧客対応・開発・営業支援という領域ごとの使い方
- 公表数字の読み方(実績・見込み・推計、一次資料か報道か)
- 顧客対応をAI化した企業が、後に方針を見直した事例
- 自社の取り組みを次の段階に進めるときの考え方
企業の生成AI活用は、<strong>個人の業務効率化 → 部門の専門業務 → 顧客接点 → 業務・人員の再設計</strong>という段階で深まっています。公表数字は大きく見えるものが多い一方、実績か見込みか、何と比べたのかは事例ごとに違います。顧客対応では、AIに置き換えるより<strong>人と組み合わせる</strong>設計のほうが、長く続けやすいと考えられます(編集部の見立て)。
8事例の一覧と、数字の読み方.
今回取り上げるのは、企業の発表、導入ベンダーの事例紹介、信頼できる報道で内容を確認できた事例だけです。成果の数字は出典に明記されているものに限り、実績・見込み・推計の区別と、出典の種類を書いています。
数字を読むときは、次の3点を確認すると、自社の検討に使いやすくなります。
- 実績か、見込み・推計か:「削減できる見込み」と「削減した」は別物です
- 何と比べたか:同じ作業の導入前と比べたのか、条件が書かれているか
- 誰が言ったか:企業の発表か、導入ベンダーの事例紹介か、報道か
なお、国内企業の導入状況の調査と、パナソニック コネクトの3年間の取り組みは生成AIの企業導入の進め方で詳しく紹介しています。同社は2025年度の実績として、生成AIによる業務削減時間が78.8万時間(前年度比2倍)にのぼったと発表しています(パナソニック コネクト、2026年7月29日)。

国内と海外の事例の違い(編集部の見立て)
8事例を並べると、国内企業は全社員への配布と社内業務の効率化から始め、顧客対応では任せる範囲を慎重に絞る傾向があります。一方、海外の事例は、顧客対応の大部分をAIに任せる、店舗の現場で働く人に一斉に配るなど、規模の大きい展開が目立ちます。ただし、海外でもKlarnaのように後から方針を見直した例があり、規模の大きさがそのまま成功を意味するわけではありません。自社の業種や顧客との関係に近い事例を選んで参考にすることをおすすめします。
業務効率化・商品企画|全社員に配ってから、業務に組み込む.
事例1|セブン-イレブン・ジャパン
- 領域:業務効率化・商品企画
- 何に使ったか:Google Cloud上に生成AI基盤「セブン-イレブン AI ライブラリー」を構築し、13種類の大規模言語モデル(LLM)を使い分けられるようにしました。2025年6月時点で20部門・約4,000人が利用し、同年8月をめどに約8,000人の全社員へ広げる計画と報じられています(2025年6月時点の報道。その後の展開は未確認)。商品開発では、SNSの声の分析や、商品化前のイメージの生成にも使っています。
- 成果:日経クロステックの報道によれば、議事録の作成は平均40分程度から平均10分に、稟議書の作成は3時間から1時間ほどに短縮しました。
- 学べるポイント:同社のCIOは講演で、商品化前のイメージを見るかどうかで開発のスピードと確認のレベルが変わると話しています。文書作業の効率化から始め、商品企画という本業の中心に広げている点が参考になります。
事例2|イオン
- 領域:業務効率化
- 何に使ったか:エクサウィザーズの法人向け生成AIサービス「exaBase 生成AI」を、グループの90社・約1,000人が利用しています(2024年3月取材時点、2024年6月掲載)。
- 成果:ホールディングスの人事部では、最もよく使う社員で月70時間、人事部全体で月130時間の削減(推計)と紹介されています。導入ベンダーの事例紹介による数字です。
- 学べるポイント:小売の大手グループで、人事などの管理部門から効果を測っている例です。グループ会社が多い企業では、共通の基盤を用意して各社で使える状態にすることが、横展開の近道になると考えられます(編集部の見立て)。

顧客対応|AIが一次対応を担い、人の窓口を見直す.
事例3|三井住友銀行「SMBC AIオペレーター」
- 領域:顧客対応(電話)
- 何に使ったか:生成AIを使った電話応対の仕組みを、日本IBMと日本総研が共同で開発し、2026年2月25日に提供を始めました。24時間365日対応で、まず個人向けサービス「Olive」の問い合わせのうち、本人確認が不要な照会を受け持っています。
- 成果:削減効果の数値は非公表です。同行は2026年3月の告知で、夜間・休日の問い合わせ件数が減少傾向にあることを踏まえ、6月1日から有人窓口の受付時間を「毎日9時〜21時」から「平日9時〜19時、土日祝10時〜18時」に変更し、時間外はAIオペレーターなどを案内するとしました。
- 学べるポイント:AIの導入が窓口の体制という目に見える変化につながった例です。一方で、有人窓口自体は残しています。AIに任せる範囲を「本人確認が不要な照会」に絞った設計は、金融機関らしい慎重な進め方といえます。
出典:IT Leaders(2026年2月) / Impress Watch / 三井住友銀行のお知らせ(2026年3月23日)
事例4|Klarna(スウェーデン・決済)
- 領域:顧客対応(チャット)
- 何に使ったか:OpenAIの技術を使ったAIアシスタントで、顧客対応のチャットを始めました(2024年2月発表)。
- 成果:サービス開始から1か月で230万件の会話に対応し、顧客対応チャットの3分の2を担当。フルタイムの担当者700人分の仕事に相当し、問題解決までの時間は11分から2分未満に短縮したと発表しました。2024年に4,000万ドルの利益改善を見込むとしています(見込み)。
- 学べるポイント:2025年5月の報道では、同社のCEOが「顧客が望めば必ず人と話せる」ことの重要性に触れ、人の担当者の採用を再び進めていると伝えられました。さらに2026年2月の報道では、CEOがAIによる対応を標準とし、人による対応を上位の体験と位置づけたうえで、顧客の中から担当者を募るUber型の仕組みを進めていると伝えられています。同社の従業員数は約7,000人から約3,000人に減ったとされます。件数と速さの数字だけでは、顧客対応の質は測れないことを示した事例と考えられます(編集部の見立て)。
出典:Klarna プレスリリース(2024年2月27日) / Entrepreneur(2025年5月) / CX Dive(2026年2月20日)

ソフトウェア開発|時間がかかる調査作業をAIで短くする.
事例5|三井住友銀行・日本総研・富士通
- 領域:システム開発・保守
- 何に使ったか:OS(コンピューターの基本ソフト)のバージョンアップに伴い、これまで動いていたプログラムが動かなくなる「非互換」の箇所を洗い出す作業に、生成AIを使う検証を行いました(2024年11月〜2025年1月)。約400件の非互換情報を抽出し、約380キロステップ(プログラムの行数の単位で約38万行)のアプリケーションで影響する箇所を特定しています。
- 成果:非互換情報の抽出にかかる時間を約65%削減できたと発表しています(検証結果)。
- 学べるポイント:コードを書く作業だけでなく、膨大な資料を読み込んで影響範囲を調べる作業に生成AIを使っている点が特徴です。大企業のシステム部門では、この種の調査作業が大きな負担になっており、横展開しやすい使い方と考えられます(編集部の見立て)。
営業支援・現場・人員配置|浮いた時間をどう使うか.
事例6|Morgan Stanley(アメリカ・金融)
- 領域:営業支援(ウェルスマネジメント)
- 何に使ったか:社内の知見を検索できる対話型AI「AI @ Morgan Stanley Assistant」に加え、顧客との面談の議事録とやることリストを作る「AI @ Morgan Stanley Debrief」を発表しました(2024年6月)。
- 成果:業界メディアの報道では、同社によればアドバイザーのチームでのAssistantの採用率は98%とされています。面談の時間短縮などの数字は、編集部では一次資料を確認できませんでした。
- 学べるポイント:顧客と向き合う専門職の面談前後の作業をAIが受け持つ設計です。営業職での活用は、資料作成より「面談の記録とフォロー」から入ると、効果が見えやすいと考えられます(編集部の見立て)。
事例7|Walmart(アメリカ・小売)
- 領域:現場業務
- 何に使ったか:店舗などで働く約150万人の従業員向けに、AIを使ったツール群を発表しました(2025年6月24日)。シフト計画の作成支援、44言語に対応した翻訳などが含まれます。
- 成果:初期の結果として、店長らの見積もりでは、シフト計画にかかる時間が90分から30分に短縮したと発表しています。発表には以前から使われている会話型AIの数字も含まれており、すべてが生成AIの成果とは限りません。
- 学べるポイント:本社の事務職だけでなく、店舗の現場で働く人を対象にしている点が特徴です。現場向けの活用では、使う人のスマートフォンや業務端末に組み込むことが前提になります。
事例8|三井住友信託銀行
- 領域:全社・人員配置
- 何に使ったか:社内向けの生成AIを2026年2月に導入し、AIなどを使った業務改革に取り組んでいます。
- 成果:報道によれば、社長が、2026年度から3年間で300億円を業務改革に投資し、管理部門から営業部門へ約900人を振り向ける方針を示しました。社内の生成AIは社員の約6割が活用しているとされています(企業の発表資料は編集部では未確認)。
- 学べるポイント:生成AIの効果を「削減時間」ではなく「人の配置」で示した例です。浮いた時間を何に使うかまで決めることが、経営として投資効果を説明する方法の1つになっていると考えられます(編集部の見立て)。
8事例から見える傾向(編集部の見立て).
| 傾向 | 当てはまる事例 | 自社への置き換え |
|---|---|---|
| 全社員に配ってから、本業に広げる | セブン-イレブン、イオン | 共通基盤を用意し、文書作業→部門の専門業務へ広げる |
| AIに任せる範囲を絞る | 三井住友銀行(AIオペレーター) | 本人確認が不要な照会など、定型の範囲から任せる |
| 人と話せる道を残す | Klarna | 件数・速さに加え、顧客満足や引き継ぎ率も測る |
| 調査・確認作業に使う | 三井住友銀行・日本総研・富士通 | 資料の読み込みや影響調査など、時間のかかる作業を選ぶ |
| 専門職の前後作業を減らす | Morgan Stanley | 面談の記録やフォローなど、本業の周辺作業から |
| 現場の人を対象にする | Walmart | 事務職だけでなく、店舗・工場・コールセンターの端末に組み込む |
| 浮いた時間の使い道を決める | 三井住友信託銀行 | 削減時間だけでなく、配置や新しい業務まで計画する |
クリエイティブ領域への広げ方
8事例の多くは、社内業務や顧客対応での活用です。広告・デザイン・映像などのクリエイティブ領域に広げる場合は、成果物がそのまま社外に出るため、著作権や表示の確認が加わります。業種別の広告・販促の事例は業種別の生成AI活用事例、社内ルールの整え方は生成AIの社内ガイドラインの作り方で解説しています。
自社の取り組みを次の段階に進めるためのチェック
Checklist- 全社員が使える共通の環境(法人向けツール・社内基盤)が用意されているか
- 効果の数字を、実績・見込み・推計に分けて記録しているか
- 文書作業の次に組み込む「部門の専門業務」の候補を決めているか
- 顧客対応にAIを使う場合、人に引き継ぐ導線と、品質を測る指標があるか
- 浮いた時間を何に使うか(人の配置・新しい業務)まで計画しているか
- 社外に出る成果物に使う場合、権利と表示の確認手順があるか
よくある質問.
Q大企業の事例は、中小企業でも参考になりますか?
Q事例の削減時間を、社内の目標にしてよいですか?
Q顧客対応をAIに任せると、満足度は下がりませんか?
Q生成AIの効果を経営層に説明するには、どうすればよいですか?
Qどの部署から始めるのがよいですか?
まとめ|「配る」の次は「組み込む」と「再設計」.
- 企業の生成AI活用は個人の効率化 → 部門の業務 → 顧客接点 → 業務・人員の再設計と深まっている
- 公表数字は実績・見込み・推計と出典の種類を分けて読む
- 顧客対応は任せる範囲を絞り、人と話せる道を残す設計が続けやすい(編集部の見立て)
- 開発では、資料の読み込みや影響調査など時間のかかる作業に効果が出ている
- 浮いた時間を何に使うかまで決めると、投資効果を説明しやすくなる
自社の生成AI活用を、全社展開から業務への組み込みまで一緒に設計します.
