この記事でわかること
- CM・MV・アニメ・音楽など、表現物で生成AIを使った公表事例8件
- それぞれの事例で、生成AIが担った工程と人が担った工程
- 公表されている制作期間・費用・本数などの数字と、その読み方
- 批判を受けた事例と、反響を分けたと考えられるポイント
- 自社の表現物に生成AIを使うときの確認事項
表現物での生成AI活用は、実験的なMVから大手ブランドのCMまで広がっています。公表事例を並べると、反響を分けたのはツールの性能よりも<strong>「何をAIで置き換えたか」と「人の役割をどう説明したか」</strong>だったと考えられます(編集部の見立て)。受け手の思い出に触れる表現ほど慎重に、新しい表現ほど実験性が評価されやすい傾向があります。
8事例の一覧と、読み方のポイント.
今回取り上げるのは、企業・制作者の発表や信頼できる報道で内容を確認できた事例だけです。成果や制作期間などの数字は出典に明記されているものに限り、報道ベースのものはそう書いています。
| 事例 | 表現物 | 時期 | 使った生成AI(公表分) |
|---|---|---|---|
| AI美空ひばり | 音楽・番組 | 2019年 | ヤマハの歌声合成技術「VOCALOID:AI」 |
| Netflix「犬と少年」 | アニメ短編 | 2023年1月 | 背景美術の画像生成 |
| コカ・コーラ「Create Real Magic」 | 参加型の画像企画 | 2023年3月 | GPT-4とDALL·Eを組み合わせた基盤 |
| Washed Out「The Hardest Part」 | ミュージックビデオ | 2024年5月 | OpenAIのSora |
| Toys"R"Us ブランド映像 | ブランドフィルム | 2024年6月 | OpenAIのSora |
| コカ・コーラ「Holidays Are Coming」 | テレビCM | 2024年11月〜 | 複数のAI制作スタジオが制作 |
| ツインズひなひま | テレビアニメ | 2025年3月 | Stable Diffusion(SDXL) |
| Kalshi のCM | テレビCM | 2025年6月 | GoogleのVeo 3ほか |

8事例を表現物の種類で見ると、生成AIの使いどころには違いがあります(編集部の整理)。
- CM・ブランド映像:全カットを生成する例が出てきた一方、ブランドへの愛着が強いほど反発も大きい
- ミュージックビデオ:アーティストの実験として、新しい映像表現そのものが評価されやすい
- アニメ:背景や作画の補助として使い、人が仕上げる。制作現場の人手不足が背景にある
- 音楽・声:声の再現は技術的に可能になったが、本人や権利者の同意が前提になる
- 参加型企画:ブランド素材をファンに開放し、AIを創作の道具として渡す
パッケージやキャラクターの事例(伊藤園のパッケージ、富山市のPRキャラクターなど)は業種別の生成AI活用事例で紹介しています。キャラクターを作る手順はAIキャラクターの作り方も参考にしてください。
CM・ブランド映像|大手ブランドの挑戦と反発.
事例1|コカ・コーラ「Create Real Magic」(2023年3月)
- 表現物:一般参加型の画像企画(デジタル看板への掲出を想定)
- 何に使ったか:OpenAIとコンサルティング会社のBain & Companyが構築した、GPT-4とDALL·Eを組み合わせた基盤で、一般の人がコンツアーボトルやサンタクロースなど同社のブランド素材を使って作品を作れるようにしました。
- 成果・反響:成果の数値は非公表です。採用された作品は、ニューヨークのタイムズスクエアやロンドンのピカデリーサーカスのデジタル看板に掲出される可能性があると発表されました。
- 学べるポイント:ブランド素材をファンに開放する参加型の使い方です。AIが完成品を作るのではなく、ファンの創作の道具になっている点が、後述のCMとは対照的です。
事例2|コカ・コーラ「Holidays Are Coming」(2024年11月〜)
- 表現物:テレビCM(1995年の有名なホリデーCMをAIで作り直したもの)
- 何に使ったか:2024年版は、複数のAI制作スタジオ(Secret Level、Silverside AI、Wild Card)がそれぞれ別のバージョンを制作しました。2025年にもAIを使った新バージョンを公開しています(制作はSilverside AIとSecret Level)。
- 成果・反響:SNSでは「魂がない」といった強い批判が相次いだと報じられました(NBC News)。2025年版については、7万本を超える映像クリップを生成したと報じられ、同社CMO(Manolo Arroyo氏)によれば、通常は約1年かかる制作を約1か月で行ったとされます。
- 学べるポイント:長年親しまれてきた表現をAIで作り直すと、出来の良し悪し以前に「なぜAIで作るのか」が問われます。思い出と結びついたブランド資産ほど、置き換えの説明が重要になると考えられます(編集部の見立て)。
事例3|Toys"R"Us「The Origin of Toys"R"Us」(2024年6月)
- 表現物:約1分のブランドフィルム(カンヌライオンズで初公開)
- 何に使ったか:映像のほぼすべてを、OpenAIの動画生成AI「Sora」で生成しました。制作はクリエイティブ会社Native Foreignで、仕上げには人の手による視覚効果の修正を加え、音楽は作曲家が新たに書き下ろしています。
- 成果・反響:数値の成果は非公表です。制作期間は数週間と報じられています。一方で、俳優やクリエイターからは批判の声も上がりました。
- 学べるポイント:「Soraで作った初のブランド映像」として注目を集めた反面、創業者の少年時代というブランドの原点の物語をAIで描いたことにも賛否が集まりました。何百もの生成案から使えるショットを選んだと報じられており、選ぶ・直すという人の工程が欠かせないことも読み取れます。
事例4|Kalshi のCM(2025年6月)
- 表現物:テレビCM(NBAファイナル第3戦で放映)
- 何に使ったか:制作者のPJ Accetturo氏が、GoogleのVeo 3で映像をすべて生成しました。台本にはChatGPT、ショットリストとプロンプト(AIへの指示文)の作成にはGeminiを使ったと報じられています。
- 成果・反響:Kalshiの広報がBusiness Insiderに語ったところでは、費用は約2,000ドル。制作者は制作期間を2日と話しています(Kalshi側は構想から放映まで3日としています)。15本の使えるクリップを得るために300〜400回の生成を行ったと報じられています。
- 学べるポイント:安さと速さが話題になりましたが、数百回の生成から選ぶ手間も同時に公表されています。数字を社内で引用するときは、こうした前提条件もセットで伝えることが大切です。

ミュージックビデオ・音楽|アーティスト主導の実験.
事例5|Washed Out「The Hardest Part」(2024年5月)
- 表現物:ミュージックビデオ(約4分)
- 何に使ったか:監督のPaul Trillo氏が、全カットをOpenAIのSoraで生成し、Adobe Premiereで編集しました。修正作業はわずかだったとされています。
- 成果・反響:数値の成果は非公表です。報道では、55本を超えるクリップで構成されたと紹介されています。
- 学べるポイント:アーティストと監督が実験として取り組んだことが明確で、Soraの表現力を示す作品として話題になりました。新しい表現そのものが作品の価値になる領域では、生成AIは受け入れられやすいと考えられます(編集部の見立て)。
事例6|AI美空ひばり「あれから」(2019年)
- 表現物:新曲の歌唱・番組・CD
- 何に使ったか:ヤマハの歌声合成技術「VOCALOID:AI」で、過去の録音をもとに美空ひばりさんの歌声を再現し、新曲を歌わせました。NHKの番組で取り上げられ、同年12月にCDが発売されています。
- 成果・反響:数値の成果は非公表です。
- 学べるポイント:現在の生成AIブームより前の事例ですが、故人の声を再現する表現の先駆けです。声や姿の再現は、権利者・遺族の同意だけでなく、受け手の感情への配慮も論点になります。声の権利はAIと声・肖像の権利の解説記事、AI音楽の商用利用はAI音楽の商用利用で詳しく扱っています。
アニメ|制作現場の人手不足と向き合う.
事例7|Netflix「犬と少年」(2023年1月)
- 表現物:アニメ短編(約3分)
- 何に使ったか:Netflix アニメ・クリエイターズ・ベース、WIT STUDIO、rinnaが共同で制作し、背景美術に画像生成技術を使いました。人が描いたレイアウトをもとにAIで背景を生成し、人が手作業で修正する工程です。
- 成果・反響:Business Insider Japanの取材では、全41カットで、監督の見立てとして背景の作業を4〜5割程度減らせたと紹介されています(公式の数値ではありません)。一方、主に海外で強い批判を受け、クレジットの表記も議論になりました。
- 学べるポイント:Netflixはアニメ業界の人手不足への実験的な取り組みと説明しました。働き手の仕事に関わる工程をAIで置き換える場合、目的の説明だけでなく、クレジットなど人の貢献の見せ方にも配慮が必要なことを示した事例です。
事例8|テレビアニメ「ツインズひなひま」(2025年3月)
- 表現物:テレビアニメ(TOKYO MX などで放送)
- 何に使ったか:フロンティアワークスとKaKa Creationが共同で制作。3DCGとモーションキャプチャー(人の動きをデータ化する技術)で作った映像を、画像生成AI(Stable Diffusion)でi2i変換(元の画像をもとに別の画像に作り変えること)してセル画風にし、最後は人が修正しています。
- 成果・反響:ITmedia NEWSは、本編の全カットでAIを補助ツールとして使い、コストと期間は従来の3分の2になる見込みだと報じました。放送後の取材では、モーションキャプチャーや3DCGで作った画像を1枚ずつ生成・調整するなど、手作業の工程が多かったと報じられています。
- 学べるポイント:「AIで作れば安く速い」という期待と、品質を保つための人の手間の両方が公表された貴重な事例です。見込みと実際の差まで含めて読むと、自社の計画にも役立ちます。
8事例から見える勘所(編集部の見立て).

表現物での生成AI活用は、効率化の道具というより、受け手との関係の中で評価されるものだと考えられます。広告や作品の目的は受け手の心を動かすことなので、「どう作ったか」も評価の一部になります。
著作権と表示の確認は前提
反響とは別に、権利面の確認も欠かせません。プロンプトに既存作品や作家の名前を入れない、公開前に既存作品との類似を確認する、生成の記録を残す、といった基本はAI動画の著作権リスクやAI画像の著作権確認方法にまとめています。
表現物に生成AIを使う前の確認
Checklist- AIで置き換える表現が、受け手の思い出や愛着と強く結びついていないか
- なぜAIで作るのかを、ブランドや作品の言葉で説明できるか
- 人が選ぶ・直す・仕上げる工程を残し、その役割を説明できるか
- 実在の人物・故人の声や姿を使う場合、本人・権利者の同意を得ているか
- プロンプトに既存の作品名・作家名・キャラクター名を入れていないか
- クレジットやAI利用の表示方針を、関係者と合意しているか
- 制作期間・費用を公表するなら、生成回数や人の手間などの前提も添えるか
よくある質問.
Q生成AIで作ったCMは、テレビで放送できますか?
Q生成AIで作った表現物は、なぜ批判されることがあるのですか?
QKalshiのように、数千ドルでCMを作れるのですか?
Qアニメ制作に生成AIを使うと、本当に省力化できますか?
Qブランドフィルムを生成AIで作るときのコツは?
まとめ|表現物は「どう作ったか」も評価される.
- 生成AIはCM・ブランド映像・MV・アニメ・音楽と、あらゆる表現物で使われ始めている
- 反響を分けたのは何をAIで置き換えたかと人の役割の説明だったと考えられる(編集部の見立て)
- 受け手の思い出や愛着に触れる表現ほど、置き換えへの反発が出やすい
- 制作費や期間の数字は、生成回数や人の手間とセットで読む
- 声や姿の再現、既存作品との類似など、権利の確認は表現の評価とは別に欠かせない
画像と動画のどちらから始めるか迷ったら、画像生成AIと動画生成AIの違いもあわせてご覧ください。
※ 本記事は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。個別の案件については弁護士等の専門家にご確認ください。記載は2026年10月時点の情報です。
ブランドの物語を生成AIで表現する企画と、反響まで見据えた制作体制を一緒に考えます.
