この記事でわかること
- メーカーが生成AIを使っている5つの工程(広告画像・マーケ素材・パッケージ・製品デザイン・営業)
- ユニリーバ、ネスレ、モンデリーズなど海外大手の公表数値と、その読み方
- トヨタ(米国の研究機関TRI)、日清食品など国内外メーカーの取り組み
- 「デジタルツイン」と生成AIの関係
- 自社で始めるときの4ステップとよくある質問
メーカーの強みは、<strong>製品の正確なデータ(3D CADやパッケージデータ)をすでに持っている</strong>ことです。海外大手の事例では、このデータを土台に、撮影し直さずに国別・媒体別の画像を作ることで制作を効率化しています。製品の形や表示が正確であることを、AIではなく元データで担保する設計が共通していると考えられます(編集部の見立て)。
メーカーの生成AI活用は5つの工程に分かれる.
今回取り上げるのは、企業の発表や信頼できる報道で内容を確認できた事例だけです。成果の数字は公表されているものに限り、実績か見込みかも区別して書いています。
事例を読むうえで押さえておきたい言葉がデジタルツインです。ここでは、実物の製品を3Dデータで忠実に再現した「デジタル上の双子」を指します。この3Dデータを使えば、カメラで撮影しなくても、角度・背景・パッケージ違いの製品画像を作れます。
なお、BMWの全カット生成AIのCM、ハインツの「A.I. Ketchup」、伊藤園のパッケージデザインは業種別の生成AI活用事例で紹介しています。本記事ではそれ以外の事例を扱います。

広告・EC画像|製品の3Dデータから量産する.
事例1|ユニリーバ(イギリス・消費財)
- 何に使ったか:NVIDIAの3D制作基盤「Omniverse」などを使い、製品の写実的なデジタルツインを作成。ラベルやパッケージ、言語の違いを1つのデータにまとめ、テレビからECまでの製品画像の制作に使っています。対象はTRESemmé、Dove、Vaseline、Clearなどのブランドです(2025年3月18日発表)。
- 成果:製品画像の制作が2倍速く、費用は50%減になったと公表しています。タイのTRESemméでは、コンテンツ制作費が87%減、制作スピードが2倍、購入意向が5%向上したとしています。
- 学べるポイント:発表では「AIを活用した技術」と表現されており、生成AIだけの成果とは書かれていません。製品の正確さはデジタルツイン(元データ)で守り、その周辺を効率化するという分担が読み取れます。
事例2|ネスレ(スイス・食品)
- 何に使ったか:広告会社Accenture Songと共同で、AIを使った社内のコンテンツ制作サービスを開発しました。製品の3Dデジタルツインを使い、季節のキャンペーンやEC向けに、撮影し直さずにパッケージの見せ方を調整・現地化できるとしています。
- 成果:業界誌の報道によれば、ネスレは4,000点の製品の3Dデータを作成済みで、2年以内に1万点に広げることをめざしています。デジタルツインを増やすための時間と費用を70%超削減できる見込みとしています(実績ではなく見込み)。
- 学べるポイント:数字は「デジタルツインを増やす作業」の削減見込みで、広告制作費全体の削減率ではありません。事例を社内で紹介するときは、何の数字かを取り違えないよう注意が必要です。

マーケ素材|生成AIツールを自社で持つ.
事例3|モンデリーズ・インターナショナル(アメリカ・菓子)
- 何に使ったか:オレオなどで知られる同社は、広告会社Publicis GroupeやAccentureと生成AIツールを共同開発し、米国のChips AhoyやドイツのMilkaのSNS素材を作っていると報じられました。米国のAmazonやWalmartのオレオの商品ページにも、2025年11月から使う計画と報じられました(その後の状況は未確認)。
- 成果:同社の幹部は、マーケティング素材の制作費を30〜50%削減できたと述べ、ツールに4,000万ドル超を投資したとしています(ロイター通信の報道。企業の発表資料は編集部では未確認)。
- 学べるポイント:外部の広告会社と組みながら、ツールは自社の資産として持つ形です。ブランドごとの決まりをツールに組み込めるため、国や商品が多いメーカーほど効果が出やすい構造だと考えられます(編集部の見立て)。
事例4|エスティ ローダー カンパニーズ(アメリカ・化粧品)
- 何に使ったか:Adobeの画像生成AI「Adobe Firefly」を使い、デジタル広告素材の制作を効率化する取り組みを発表しました(2025年3月12日)。画像のサイズ変更や拡張など、媒体ごとの展開に使い、最初にM·A·Cブランドで試しています。
- 成果:成果の数値は非公表です。発表では、制作が必要な素材が数十万点規模にのぼることが示されています。
- 学べるポイント:化粧品メーカーでも、新しい表現を作るより「サイズ展開・派生素材」から使い始めています。製品の効能に関わる表現を生成しない範囲から入る、という順序は参考になります。美容業界の事例は業種別の生成AI活用事例のロレアルの項も参照してください。
ユニリーバ、ネスレ、モンデリーズの数字は、いずれも企業側の発表や幹部の発言です(エスティ ローダーは成果の数値を公表していません)。第三者が検証した数字ではないため、自社の投資判断に使うときは、同じ条件で小さく試して自社の数字を取ることをおすすめします。
製品デザイン|設計の制約を守りながら案を出す.
事例5|トヨタ自動車(Toyota Research Institute)
- 何に使ったか:トヨタの研究機関Toyota Research Institute(TRI)は2023年6月、テキストから画像を作る生成AIに、デザイナーの初期スケッチと工学的な制約(空気抵抗、最低地上高、室内の寸法など)を組み込む技術を発表しました。
- 成果:数値の成果は非公表です。研究成果として論文で発表されたもので、デザインと設計のすり合わせに必要な試行の回数を減らすことが狙いとされています。
- 学べるポイント:画像生成AIは自由な発想が得意な一方、メーカーのデザインには物理的な制約があるという課題に正面から取り組んだ例です。量産車への採用は確認できていないため、「研究段階の事例」として読むのが適切です。
なお、工場の生産管理や設備保全などのOT(工場の機械や設備を動かす技術)領域でも、AIの活用は進んでいます。ただしこの領域は、画像や文章を生み出す生成AIよりも、データ分析や予測のAIが中心です。本記事ではクリエイティブ寄りの業務に絞って扱います。
営業・社内文書|国内メーカーは「社内」から.
事例6|日清食品ホールディングス(日本・食品)
- 何に使ったか:2023年4月に自社の対話型AI「NISSIN AI-chat」を公開し、グループの約4,000ユーザー(2023年当時)で利用を始めました。2023年11月には、営業部門の約30の業務での活用を想定した効果の試算を示しています。その後、2025年にはMicrosoft 365 Copilot(業務アプリに組み込まれたAI)を約1,700人に配布しています。
- 成果:2023年の発表では、約30の営業業務に全面的に使った場合、営業担当者1人あたり年間400時間の削減を見込むとしていました(試算)。2025年の報道では、Microsoft 365 Copilotの効果として1人あたり年間79.4時間の削減、費用対効果は3.9倍(試算)、月間利用率85%と紹介されています。
- 学べるポイント:数字は、2023年の「見込み」と2025年のCopilotの数字で、対象も性質も違います。社内向け業務で効果の測り方を決めてから、社外に出る表現物へ広げる、という順序は生成AIの企業導入の進め方の考え方とも重なります。
出典:ASCII.jp(2023年11月) / IT Leaders / Business Insider Japan(2025年4月4日)
国内メーカーで、生成AIで作った広告やパッケージの成果を数値で公表している例は、編集部が確認できた範囲では多くありません(2026年10月時点)。営業資料・取扱説明書・技術文書の作成支援も、取り組みは各所で語られていますが、数字まで公表されている例は限られます。
カタログ・取扱説明書・営業資料での使い方(編集部の整理)
公表事例は広告画像や社内業務が中心ですが、メーカーのクリエイティブ業務には、カタログ、取扱説明書、営業資料、展示会の資料など、文章と図の多い制作物もたくさんあります。これらは数値の成果を公表している例が少ないため、ここでは編集部の整理として、使いどころと注意点をまとめます。
| 制作物 | 生成AIが役立つ工程 | 人が必ず確認すること |
|---|---|---|
| 製品カタログ | 商品説明文の下書き、用途別の言い換え、多言語版の初稿 | 仕様・型番・価格・寸法などの数値 |
| 取扱説明書 | わかりにくい表現の書き換え案、図解の構成案、FAQの整理 | 安全に関わる注意書き、法令で求められる表示 |
| 営業資料 | 業界別・顧客別の提案書の初稿、事例のまとめ | 他社名・実績の数字、守秘義務のある情報 |
| 展示会・ウェブ | キャッチコピー案、製品紹介動画の構成、背景画像 | 製品の形・色が実物と違って見えないか |
どの制作物でも共通するのは、数値や安全に関わる情報は元資料と照合することです。生成AIは文章を整えるのは得意ですが、仕様の数字をもっともらしく間違えることがあります。設計部門が持つ元データを「正」とし、AIはその伝え方を工夫する道具として使うのが現実的です。
6事例から見える傾向と、始め方(編集部の見立て).
| 傾向 | 当てはまる事例 | 自社への置き換え |
|---|---|---|
| 製品の正確さは元データで守る | ユニリーバ、ネスレ | 3D CADやパッケージデータを、広告用に使える形で整備する |
| ツールを自社の資産にする | モンデリーズ | ブランドの決まりを組み込んだ社内ツール・テンプレートを持つ |
| 派生素材から始める | エスティ ローダー | 新しい表現より、サイズ展開・背景違いから使う |
| 制約を入力に含める | トヨタ(研究) | 寸法・規格・表示の決まりを、プロンプトや確認項目に入れる |
| 社内業務で測り方を作る | 日清食品 | 営業資料などで効果測定の型を作ってから広げる |

製品を生成AIで見せる前の確認
Checklist- 製品の形・色・ロゴ・表示が、元データ(3D CAD・版下)と一致しているか
- 容量・サイズ感・付属品を、実際より良く見せていないか(景品表示法の優良誤認の観点)
- 食品なら盛り付けや量、家電なら機能の見せ方が、実際の製品と違って見えないか
- 使用した生成AIツールの商用利用条件と、生成物の権利の扱いを確認したか
- 他社製品や既存のキャラクター・デザインに似せる指示をしていないか
- 製品データを外部ツールに入れる場合、機密情報の扱いを社内で決めているか
よくある質問.
Qデジタルツインと生成AIは何が違うのですか?
Q中堅・中小メーカーでも同じことができますか?
Q取扱説明書や技術文書に生成AIを使うときの注意点は?
Q製品の3Dデータを生成AIツールに入れても大丈夫ですか?
Q事例の削減率は、そのまま自社の目標にしてよいですか?
まとめ|「正確な製品データ」がメーカーの武器になる.
- メーカーの生成AIは、広告・EC画像、マーケ素材、パッケージ、製品デザイン、営業の5工程で使われている
- 海外大手は製品の3Dデジタルツインを土台に、撮影し直さずに画像を展開している
- 公表数字は実績か見込みか、何の数字かを分けて読む
- 製品デザインでは、工学的な制約を入力に含める研究が進んでいる
- 国内メーカーは社内業務で効果測定の型を作ってから広げる例が多い
社外に出す表現物に使う前に、生成AIの商用利用と著作権の解説記事もあわせてご確認ください。
自社製品のデータを活かした、生成AIによる広告・販促素材づくりを一緒に設計します.
