この記事でわかること
- アパレル領域で生成AIを広告・販促に使った公表事例6件(プラットフォーム等の事例を含む)
- キャンペーン画像・モデル画像・試着・スタイリング提案という用途の違い
- 数値が公表されている事例(Zalando)と、成果が非公表の事例の読み方
- 批判を受けた事例(Levi's、Valentino)から見える論点
- AIビジュアルを公開する前の確認項目
アパレルで生成AIが効果を出しやすいのは、トレンドに合わせた<strong>キャンペーン画像を速く・多く作る</strong>用途です。一方、モデルや表現そのものをAIで置き換えると受け取られた事例は批判を受けています。公表情報を見る限り、本人の同意・実物との一致・使う理由の説明をそろえられるかどうかが、受け止め方に影響していると考えられます(編集部の見立て)。
アパレルのAI活用は4つの用途に分かれる.
今回取り上げるのは、企業の発表や信頼できる報道で内容を確認できた事例だけです。成果の数字は、公表されているものに限って記載しています。用途で分けると、次の4つになります。
- キャンペーン画像の生成:季節やトレンドに合わせたビジュアルを、撮影を待たずに作る
- モデル画像の生成・加工:実在モデルの写真をもとに服や背景を差し替える、またはAIで生成したモデルを使う
- バーチャル試着:生成AIで、さまざまな体型のモデルや自分の写真に服を着せて見せる
- AIスタイリング:AIが似合う服やコーディネートを提案する
なお、H&Mの「デジタルツイン」(実在モデル本人をもとにしたAIの分身)、Mango、GuessなどのAIモデル起用はAIモデル・AIタレントの広告事例で、パルコの全編生成AI広告は業種別の生成AI活用事例で紹介しています。本記事ではそれ以外の事例を中心に扱います。

キャンペーン画像|トレンドの速さに追いつく.
事例1|Zalando(ドイツ・ファッションEC)
- 何に使ったか:雑誌風のキャンペーン画像(エディトリアル画像)を生成AIで制作しています。ロイター通信の報道によれば、SNSで生まれる短命なトレンドに合わせてビジュアルを素早く出すことが狙いで、キャンペーンに起用したモデルの「デジタルツイン」の開発も進めているとされます。
- 成果:2024年第4四半期のエディトリアルなキャンペーン画像の約70%がAI生成だったと報じられています。同社のコンテンツ担当幹部は、画像制作の期間が6〜8週間から3〜4日程度に縮まり、コストは90%削減できたと述べています。
- 学べるポイント:数字が出ているのは「キャンペーン画像」に限った話で、全商品画像ではない点に注意が必要です。商品ページの画像のように実物との一致が求められる領域ではなく、世界観やトレンド感を伝える画像から使っていることがわかります。
Zalandoの例は、生成AIの価値を「コスト削減」だけでなくスピードで説明している点が参考になります。撮影の手配に数週間かかるあいだにトレンドが終わってしまう、という課題はアパレル共通です。一方で、モデルや写真家の仕事との関係をどう説明するかは、次のZaraの事例でも論点になっています。
モデル画像|実在モデルを「補う」か「代わりにする」か.
事例2|Zara(スペイン・Inditex)
- 何に使ったか:過去に撮影したモデルの写真を、本人の許可を得たうえでAIで加工し、服や背景を差し替えたEC用の画像を作っていると報じられました(2025年12月)。
- 成果:数値は非公表です。同社の広報は、AIは既存の工程を補うためだけに使っていると説明しています。英国の経済紙City AMは、報酬は業界の慣行に沿ったもので、モデル本人も追加の撮影と同等の報酬を受けたと話していると伝えています。
- 学べるポイント:本人の許可と報酬を先に示したことで、論点が「無断利用」ではなく「撮影の仕事が減るのでは」という業界の懸念に絞られています。実際、英国の写真家団体は撮影の発注が減ることへの懸念を表明しています。
事例3|Levi's × Lalaland.ai(アメリカ)
- 何に使ったか:AIで生成したモデルの技術を持つLalaland.aiと組み、ECサイトで多様な体型・肌の色のAI生成モデルを、人間のモデルを補う形で見せる試験を発表しました(2023年3月)。
- 成果:数値は非公表です。発表後、「多様なモデルを雇う代わりにAIで済ませるのか」という批判が広がり、同社は人間のモデルの撮影を置き換えるものではなく、コスト削減が目的でもないと説明しました。
- 学べるポイント:同社は当初から「AIが人間のモデルを完全に置き換えることはないだろう」と述べていましたが、多様性という価値をAIで表現することへの反発は避けられませんでした。AIで何を表現するかは、ブランドが大切にしている価値と照らして決める必要があると考えられます(編集部の見立て)。
実在モデルの姿をAIで使う場合、日本でも肖像権・パブリシティ権(有名人の名前や姿が持つ集客力を守る権利)の論点があります。考え方はAIと声・肖像の権利の解説記事にまとめています。

バーチャル試着とAIスタイリング|「自分に似合うか」を見せる.
事例4|Google ショッピングのバーチャル試着(アメリカ)
- 何に使ったか:2023年6月、生成AIを使って、XXS〜4XLの実在のモデルに服を着せて表示する機能を米国で始めました(対象は女性用トップス。開始時の参加ブランドはAnthropologie、Everlane、H&M、LOFT)。2025年5月には、自分の全身写真をアップロードして試着できる機能を試験機能として提供し、6月には試着アプリ「Doppl」も公開しています。
- 成果:利用による成果は非公表です。導入の背景として、Googleは米国の買い物客を対象にした調査で、42%がモデルの画像に自分が表れていないと感じ、59%が服を買った後に想像と違って不満を感じたと紹介しています。
- 学べるポイント:AIで「架空のモデル」を作るのではなく、実在の多様な体型のモデルを土台にしている点が特徴です。体型の幅を見せることが、購入前の不安を減らす手段として位置づけられています。日本での提供状況は、編集部では確認できていません。
事例5|ZOZO「WEAR」のAI診断(日本)
- 何に使ったか:ファッションコーディネートアプリ「WEAR」で、AIによる診断をもとに、ユーザーに「似合う」コーディネートを提案しています。2026年4月27日には、LINE公式アカウント「ZOZOの似合うコーデAI ラボくん」を開設しました。会話で着用シーンや取り入れたいアイテムを伝えると、WEARに投稿されたコーディネートの中から提案され、使われているアイテムや似たアイテムをZOZOTOWNで購入できる仕組みです。
- 成果:数値は非公表です。
- 学べるポイント:広告そのものではありませんが、AIが提案し、選ぶのは客という接客型の使い方です。画像を生成して見せるより表示上のリスクが小さく、国内では取り組みやすい入口と考えられます(編集部の見立て)。
国内アパレルでは、生成AIで作った広告の成果を数値で公表している例は、編集部が確認できた範囲では多くありません(2026年10月時点)。国内の事例を参考にするときは、施策の中身と成果の数字を分けて読むことをおすすめします。
AI生成の広告|表示していても批判されることがある.
事例6|Valentino「DeVain」バッグのAI動画(イタリア)
- 何に使ったか:2025年12月、バッグ「DeVain」のプロモーションとして、AIで生成したシュールなコラージュ風の動画をInstagramに投稿しました。投稿にはAIを使ったことが示されていました。
- 成果:数値は非公表です。BBCによれば、「オートクチュールのメゾンなのに残念」「手抜き」といったコメントが相次ぎました。Getty Imagesの担当者は、AI使用を開示していても支持を得られなかった例として言及しています。
- 学べるポイント:AI生成であることの表示は必要条件であって十分条件ではないことを示した事例です。職人の手仕事を価値の中心に置く高級ブランドでは、AIの使い方そのものがブランドの約束と矛盾して見えるおそれがあると考えられます(編集部の見立て)。
AI生成の表示ルールは、広告プラットフォームごとに異なります。媒体別の設定はSNS広告動画をAIで作る方法で解説しています。
6事例から見える傾向(編集部の見立て).
6事例を並べると、生成AIそのものの出来よりも、何を置き換え、何を補うのかの説明が受け止め方に影響していると考えられます。
| 傾向 | 当てはまる事例 | 実務への置き換え |
|---|---|---|
| スピードで説明すると伝わりやすい | Zalando | 「撮影を減らす」より「トレンドに間に合わせる」と目的を言う |
| 本人の同意と報酬を先に示す | Zara | モデル契約に、AI加工の範囲・期間・報酬を書き込む |
| 価値をAIで代用しない | Levi's | 多様性・職人技など、ブランドの核になる価値は実在の人で表す |
| 実在の体型で見せる | 架空モデルより、実在モデルの体型の幅を優先する | |
| 提案型から始める | ZOZO | 画像生成より、似合う服の提案や接客から入る |
| 表示は前提、それだけでは足りない | Valentino | 表示に加えて「なぜAIか」をブランドの言葉で説明する |
商品画像は「実物との一致」が最優先
キャンペーン画像と違い、商品ページの画像は購入の判断材料です。色・素材感・シルエットが実物と違って見えると、景品表示法の優良誤認(実際より著しく良く見せる表示)の問題になりえます。触ってよい範囲の線引きはEC商品画像のAI活用事例で詳しく整理しています。

国内アパレルが取り入れやすい3つの入口(編集部の整理)
海外大手の事例は規模が大きく、そのまま真似するのは現実的ではありません。国内の中堅・中小アパレルが取り入れやすいのは、次の3つだと考えられます。
- SNS用のムード画像:新作の世界観を伝える背景やシーンの画像。商品そのものは実物の写真を合成し、色を基準カットに合わせる
- ルックの案出し:撮影前に、背景・ポーズ・光の雰囲気をAIで試し、撮影の指示書を作る。完成物にAI画像を使わないため、表示上のリスクが小さい
- コーディネート提案の文章:商品の組み合わせ例や着こなしの説明文の下書き。最終的な表現はスタッフが整える
いずれも、生成AIに任せるのは商品の周辺や準備の工程で、服そのものの見え方は実物で担保する、という考え方です。
自社で試すときの進め方(編集部の提案)
事例から逆算すると、最初の1案件は次の順で進めると、社内外への説明がしやすくなります。
用途を「キャンペーン画像」に絞る
商品ページの画像ではなく、季節施策やSNS用のイメージ画像から始めます。商品の正確さより世界観が問われる領域なので、表示上のリスクを抑えられます。
商品は実物を撮影して基準にする
服そのものは実物を撮影し、色と素材感の基準カットを1枚決めます。生成した画像は必ずこの基準と並べて確認します。
モデルの扱いを決める
実在モデルを加工するなら同意・範囲・報酬を契約に入れ、AI生成のモデルを使うなら実在の人物に似ていないかを複数人で確認します。
使う理由を一文で用意する
「トレンドに間に合わせるため」「体型の幅を見せるため」など、なぜAIを使うのかを社外に説明できる言葉にしておきます。
成果の測り方を決めて比べる
制作期間・本数・費用に加え、クリック率や返品率など、同じ条件で比べられる指標を事前に決めておきます。
よくある質問.
Qアパレルの広告でAI生成のモデルを使うのは違法ですか?
QAI生成であることは表示すべきですか?
Q実在のモデルをAIで加工して使う場合、何を契約で決めればよいですか?
QZalandoのようにコストを90%下げられますか?
Q国内の中小アパレルは何から始めればよいですか?
まとめ|「補う」使い方から始める.
- アパレルのAI活用はキャンペーン画像・モデル画像・試着・スタイリング提案の4用途に分かれる
- 数値が公表されているZalandoは、キャンペーン画像のスピードに使っている
- 実在モデルを使うなら、本人の同意・報酬・範囲を契約で先に決める
- 多様性や職人技などブランドの核になる価値をAIで代用すると、批判を受けやすい(編集部の見立て)
- 商品ページの画像は実物との一致を最優先にする
AI生成物の権利の基本は生成AIの商用利用と著作権の解説記事もあわせてご覧ください。
※ 本記事は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。個別の案件については弁護士等の専門家にご確認ください。記載は2026年10月時点の情報です。
自社ブランドに合うAIビジュアルの使い方と、公開前の確認体制を一緒に設計します.
