この記事でわかること
- 資生堂・コーセー・花王・Doveなど、美容業界のAI活用事例6件
- 肌診断・メイク体験・広告方針という3つの活用の型
- 公表されている利用者数などの数字と、その読み方
- AIで作った肌画像やビフォーアフター表現で注意したい薬機法・景品表示法の論点
- 美容広告にAIを使うときの公開前チェック
国内の美容大手のAI活用は、<strong>肌診断やカウンセリングなど「接客」の領域</strong>が中心で、利用者数などの成果も公表されています。一方、AIで加工・生成した肌の画像で効果を見せる広告は、医薬品等適正広告基準の保証表現の禁止や、景品表示法の優良誤認の論点に直結します。AIは「診断・体験・案出し」に使い、効果の表現は試験データと実写で裏づける、という線引きが現実的と考えられます(編集部の見立て)。
美容業界のAI活用は3つの型に分かれる.
今回取り上げるのは、企業の発表や信頼できる報道で内容を確認できた事例だけです。成果の数字は公表されているものに限り、技術提供元の発表や報道によるものはそう明記しています。
なお、ロレアルの社内コンテンツ制作ラボ(効果を示す目的でAI生成の人物画像を使わない方針)と、ウテナのAIアニメ広告の撤回は業種別の生成AI活用事例で紹介しています。本記事ではそれ以外の事例を扱います。

肌診断・カウンセリング|「接客の入口」にAIを置く.
事例1|資生堂「エリクシール AI スキンアナライザー」のAIチャット(日本)
- 何に使ったか:オンラインで肌を16項目測定できるサービスに、大規模言語モデル(LLM:大量の文章で学習した対話型AIの基盤)を使ったAIチャット機能を追加しました(2025年9月22日開始)。測定結果をもとに、商品や成分、生活習慣についてアドバイスします。
- 成果:サービスの利用者は延べ56万人(2024年9月〜2025年8月の1年間)と公表しています。売上への効果は非公表です。
- 学べるポイント:測定という客観的なデータを起点に、AIが会話で提案する設計です。効果を「見せる」のではなく、肌の状態を「知らせる」使い方なので、広告表現上のリスクを抑えやすいと考えられます(編集部の見立て)。
事例2|コーセー「KOSÉ HADAmite(ハダミテ)」(日本)
- 何に使ったか:パーフェクト社のAI肌診断・バーチャルメイクの技術を使い、Web・LINE・店頭で肌チェックを提供しています。
- 成果:技術提供元の導入事例ページでは、利用者数が旧サービス比403.6%、利用者の41%が店頭でコーセーの化粧品を購入した(2022年の調査)などの数字が紹介されています。コーセー自身の発表ではなく、技術提供元が掲載した数字です。
- 学べるポイント:オンラインの診断を店頭での購入につなげる導線として評価されている点が参考になります。ベンダーの事例ページの数字を社内で引用するときは、出典が提供元であることを明記しておくと誤解を防げます。
出典:パーフェクト社 導入事例
事例3|花王「肌評価AI」「Kirei肌AI」(日本)
- 何に使ったか:2021年1月、深層学習(大量のデータから特徴を学ぶAIの手法)で、化粧感(素肌か化粧肌か)や化粧くずれの程度、年齢印象などを判別・可視化する「肌評価AI」を発表しました。同年7月には、この技術でマスク着用時の化粧くずれを調べた結果を公表しています。さらに2021年12月には、専門判定者の目視評価を学習させ、つや感・透明感などを含む16項目の肌印象を評価できる「Kirei肌AI」を発表し、製品開発やカウンセリングに活用するとしています。
- 成果:研究上の数値として、素肌か化粧肌かの判別精度を92.7%(肌の部分画像ごとの判別精度)と発表しています。事業上の成果は非公表です。
- 学べるポイント:AIを研究開発と、根拠のある情報発信に使っている例です。広告で効果を伝えるときに必要な「合理的な根拠」づくりに、AIの評価技術を役立てる方向性として読めます。
出典:花王 ニュースリリース(2021年1月22日) / 花王 ニュースリリース(2021年7月28日) / PR TIMES(花王、2021年12月7日)
メイク体験・シミュレーション|体験価値と表示のバランス.
事例4|コーセー「コスメデコルテ」のオンラインカウンセリング(日本)
- 何に使ったか:ビデオ通話のカウンセリング中に、口紅などを画面上で試せるコースを始めました(2022年7月の報道)。パーフェクト社のメイクシミュレーターを、自社のオンライン接客の仕組みに組み込んでいます。
- 成果:数値の成果は非公表です。
- 学べるポイント:店頭のタッチアップ(実際に試すこと)をオンラインで補う使い方です。販売員の接客とAIの体験を組み合わせることで、画面だけで完結しない購買体験をつくっています。
事例5|資生堂「エリクシール AI スキンアナライザー」のたるみ改善シミュレーション(日本)
- 何に使ったか:AIが顔写真を立体的に解析し、「たるみが改善した場合の顔印象」をシミュレーション画像で見せる機能を追加しました(2026年8月3日開始)。資生堂の研究所の特許技術を応用しています。
- 成果:サービス開始(2024年9月)以降の利用者は延べ172.9万人と公表しています。
- 学べるポイント:体験としての魅力が大きい一方、「改善後の顔」を見せる表現は、後述する使用前後の図画や効能の範囲のルールと関わる領域です。同社のサービスが問題だということではありませんが、こうしたシミュレーション画像を広告に転用する場合は、薬事の確認がとくに重要になると考えられます(編集部の見立て)。
広告方針|「AIで描かないもの」を宣言する.
事例6|Dove「Keep Beauty Real」(イギリス・ユニリーバ)
- 何に使ったか:2024年4月、広告やコミュニケーションでAIを使って実在の女性を表現しないと宣言しました。同時に、AIで画像を作る人向けに、多様な美しさを表現するための指示文の手引き「Real Beauty Prompt Guidelines」を公開しています。
- 成果:数値の成果は非公表です。宣言と同時に発表した調査は施策の背景データで、成果ではありません。
- 学べるポイント:AIの使わない領域を先に決めることでブランドの価値を守る例です。一方で、AI画像の作り方の手引きを公開したことは「AIから距離を置く」宣言と矛盾するという指摘もあり、方針の一貫性まで問われることがわかります。
海外の大手ブランドでは、ロレアル(効果を示す目的でAI生成の人物の肌・髪を使わない)やDove(広告で実在の女性をAIで表現しない)のように、AIで描かないものを方針として示す例があります。国内の公表事例は、肌診断やメイク体験など、効果を描くのではなく肌の状態を知らせる使い方が中心です。描かないものを先に決めることは、薬機法・景品表示法の観点からも理にかなった進め方と考えられます(編集部の見立て)。
AIで作った肌画像に関わる法規制とガイドライン.
AIで作った広告だからといって、特別なルールがあるわけではありません。既存の広告ルールが、そのまま適用されます。ここでは化粧品の広告で押さえておきたいものを整理します。
薬機法と医薬品等適正広告基準
医薬品医療機器等法(薬機法)第66条第1項は、化粧品を含む医薬品等の効能・効果などについて、虚偽または誇大な広告を禁じています。その具体的な考え方を示しているのが、厚生労働省の「医薬品等適正広告基準」(平成29年9月29日 薬生発0929第4号)と、その解説(同日 薬生監麻発0929第5号)です。基準では、効能効果や安全性が確実であると保証する表現を禁じており(第4の3(5))、解説では図面・写真について次のように示しています。
使用前、後に関わらず図面、写真等による表現については、承認等外の効能効果等を想起させるもの、効果発現までの時間及び効果持続時間の保証となるもの又は安全性の保証表現となるものは認められない厚生労働省「医薬品等適正広告基準の解説及び留意事項等について」第4の3(5)の解説〈共通〉(4)「図面、写真等について」
また、化粧品が表示できる効能は、「乾燥による小ジワを目立たなくする」を含む56項目の範囲に限られています(平成23年7月21日 薬食発0721第1号による改正)。AIで生成・加工した「使用後」の肌が、この範囲を超える効果(シワやたるみがなくなる等)を想起させれば、問題になるおそれがあります。
業界の自主基準
日本化粧品工業会の「化粧品等の適正広告ガイドライン」(2026年7月24日に公表された改訂α版。正式版かどうかの位置づけは、同会の掲載ページには示されていません)は、使用前後の比較に使う写真は同一条件で撮影し、作為的な操作を加えていないものでなければならないとしています(F7.2)。ガイドラインに「AI」「画像加工」を名指しした記述は編集部では見当たりませんでしたが、AIで生成・加工した比較画像は、この考え方と両立しにくいと考えられます(編集部の見立て)。
景品表示法
景品表示法第5条第1号は、商品の品質などを実際のものより著しく優良であると示す表示(優良誤認表示)を禁じています。さらに第7条第2項により、消費者庁は表示の裏づけとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができ、提出できなければ、措置命令の適用上、優良誤認表示とみなされます。AIで作った画像が示す効果を、試験データで説明できるかが問われます。
2023年10月1日からは、広告であることを隠した表示を規制するステルスマーケティング規制も施行されています。AIで作った架空の人物が「使ってみた」と語るような広告は、広告であることの表示とあわせて慎重に扱う必要があります。

美容広告にAIを使うときの進め方.

事例と規制を合わせると、AIを使う場所は次のように整理できます(編集部の見立て)。
| 使い方 | 向き・不向き | 理由 |
|---|---|---|
| 肌診断・カウンセリング | 向いている | 肌の状態を知らせる用途で、効果の保証になりにくい |
| メイクのバーチャル体験 | 向いている(表示に注意) | 業界ガイドラインは、メーキャップ効果は事実に反しない限り表現できるとしている |
| 世界観・ムードのビジュアル | 向いている(人物に注意) | 商品の効果を示さない背景・色・質感の表現から使える |
| 使用前後の肌の比較画像 | 向いていない | 同一条件で撮影した実写が求められ、AI生成・加工とは両立しにくい |
| 効果を示す人物の肌・髪 | 慎重に | 保証表現・優良誤認の論点に直結する。ロレアルは使わない方針 |
肌診断・シミュレーションの画像を販促に使うとき
事例で紹介した肌診断やシミュレーションは、お客さま一人ひとりの体験としては価値があります。注意したいのは、その画像や結果を広告やSNS投稿に転用するときです。体験の画面では「シミュレーション」だと分かっていても、広告の中で切り出されると、実際の使用結果のように受け取られるおそれがあります。転用する場合は、シミュレーションであることを画像の近くに明記し、化粧品の効能の範囲を超える変化を見せていないかを、薬事の担当者と一緒に確認してください。診断の結果として示す数字(利用者数、満足度など)を広告に使う場合も、調査の条件を添えることが基本です。
AI生成の人物を使う広告全般の注意点はAIモデル・AIタレントの広告事例で、広告表示の基本は生成AIを広告に使うときの注意点でまとめています。
よくある質問.
QAIでモデルの肌をきれいに加工した画像を、化粧品の広告に使ってもよいですか?
Q肌診断アプリのシミュレーション画像を広告に使えますか?
Qメイクアップ効果のビフォーアフターなら問題ありませんか?
QAIで生成した人物を、美容サロンや美容医療の広告に使ってもよいですか?
QAIを使ったことは広告に表示する必要がありますか?
まとめ|AIは「診断・体験」に、効果の表現は「実写と根拠」で.
- 美容業界のAI活用は肌診断・メイク体験・広告方針の3つの型に分かれる
- 国内大手は接客の入口としてAIを使い、利用者数などを公表している
- AIで作った肌画像で効果を見せると、保証表現の禁止・効能の範囲・優良誤認の論点に直結する
- 使用前後の比較は、業界ガイドラインの考え方からも同一条件の実写が基本
- 海外では「AIで描かないもの」を宣言するブランドもある
AI生成物の権利の基本は生成AIの商用利用と著作権の解説記事もあわせてご覧ください。
※ 本記事は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。個別の案件については弁護士等の専門家にご確認ください。記載は2026年10月時点の情報です。
美容ブランドの広告で、AIをどこまで使えるかの線引きと制作体制を一緒に整理します.
