この記事でわかること
- バーチャルモデル制作の5工程と、それぞれで人が決めること
- 参照画像・画像編集・LoRAという3つの「顔の固定」方法の選び方
- 顔を変えずにポーズ・衣装・背景を展開するプロンプトの型
- 商品を正しく見せるための合成・レタッチの注意点
- 肖像・規約・AI表示・景品表示法の確認ポイントと、外注費用の目安
バーチャルモデルは「1枚の良い画像」ではなく「同じ人物を何十カットも再現できる仕組み」として作ります。設定書で人物像を言語化し、確定した顔を参照画像やLoRAで固定し、商品は実物を合成する。この順番を守ると、量産しても別人にならず、表示上のトラブルも避けやすくなります。
バーチャルモデルとは|広告・ECでの使いどころ.
本記事でいうバーチャルモデルは、画像生成AIで作った、実在しない人物のモデルです。SNSで活動する「バーチャルインフルエンサー」とは違い、ここでは商品画像・バナー・LP(ランディングページ:広告から最初に開くページ)などで商品を着る・持つ・使う役を担う人物を指します。
広告では、伊藤園が「お〜いお茶 カテキン緑茶」のCMにAIタレントを起用したと発表しています(伊藤園ニュースリリース(2024年3月29日))。パルコも2023年のホリデーキャンペーンで、実在のモデルを起用せずに生成AIで制作したビジュアルを公開しました(FASHIONSNAP(2023年10月30日))。こうした起用事例はAIモデルを起用した広告事例の記事にまとめているので、本記事では作り方に絞って解説します。
向いている用途・向いていない用途
- 向いている:アパレルや雑貨の着用・使用イメージ、季節ごとのバナー差し替え、海外向けなど人物像を変えたいクリエイティブ、撮影が難しいシーンのイメージカット
- 慎重に扱う:化粧品・健康食品などで「使用前後」や「効果」を人物で見せる表現、口コミ・体験談風の見せ方。人物が実在しないこと自体が誤認につながるおそれがあります

工程1|キャラクター設定書を書く.
最初にやるのは、プロンプトを書くことではなく人物像を文章で決めることです。設定書がないまま生成を始めると、出てきた画像の中から「なんとなく良いもの」を選ぶことになり、ブランドとして説明できない人物になります。
キャラクター全般の設定書の作り方はAIキャラクターの作り方の記事で詳しく解説しています。広告・EC用のモデルでは、それに加えて次の項目を決めておくと、後工程で迷いません。
| 項目 | 決めること | 例 |
|---|---|---|
| 用途と媒体 | どの画面で、何を見せる役か | ECの着用画像とInstagram広告。トップスとアウターを着る役 |
| ターゲットとの距離 | 憧れ型か、等身大型か | 30代の働く女性が「自分にも似合いそう」と思える等身大型 |
| 外見の基本 | 年代・体型・髪型・肌の質感・メイクの濃さ | 30代前半、標準体型、肩までの黒髪、ナチュラルメイク |
| 表情とポーズの幅 | 許容する表情・ポーズの範囲 | 笑顔は控えめ。腕組みなど強いポーズはしない |
| NG条件 | 避ける見た目・演出 | 特定の芸能人を思わせる髪型や衣装、過度な肌の露出 |
| 運用ルール | 誰が承認し、どこまで変えてよいか | 顔・髪型は固定。服・背景・ポーズのみ変更可 |
あなたは広告のキャスティング担当です。次の情報から、AIで作る架空のモデルの設定書を作ってください。 【ブランドと商品】(例:30代女性向けのオフィスカジュアル。価格帯は中価格) 【使う媒体】(例:ECの商品ページの着用画像、Instagram広告) 【ターゲット】(例:30〜40代の会社員女性。きれいめだが頑張りすぎない服を探している) 出力形式: 1. 人物像の要約(3行) 2. 外見の基本(年代・体型・髪型・肌・メイク)を箇条書きで 3. 表情とポーズの「してよい/しない」 4. NG条件(実在の人物や既存キャラクターを連想させる要素を含める) 5. 画像生成AIに渡す英語の人物描写(1段落。実在の人物名は使わない)
工程2|顔を固定する(参照画像・LoRA).
バーチャルモデル制作でいちばん難しいのが、カットが変わっても同じ人物に見える状態を作ることです。文章だけで同じ顔を再現しようとしても、生成のたびに少しずつ別人になります。そこで、確定した顔を「画像」として渡す方法を使います。
まず「確定顔」を1枚決める
設定書の人物描写で数十案を生成し、正面・明るい光・無表情に近い1枚を確定顔として選びます。ここで人の手でレタッチして整えておくと、以降の参照の精度が上がります。可能なら斜め・横向きも同じ人物として作っておきます。
方法1:参照画像で指定する
多くの画像生成AIに、画像を入力して「この人物で」と指示できる機能があります。たとえばMidjourneyは、2025年5月に人物や物を画像で参照する「Omni Reference」を公開し、参照の強さを調整できると案内しています(Midjourney公式のお知らせ)。Googleも、2025年8月に発表したGemini 2.5 Flash Imageで、複数のプロンプトや編集をまたいで同じキャラクターの見た目を保てることを特徴に挙げています(Google Developers Blog(2025年8月26日))。
方法2:画像編集で差分を作る
確定画像そのものを入力し、「服だけ変える」「背景だけ変える」と指示する方法です。画像を入力して新しい画像を作る手法はi2i(image to image)とも呼ばれます。OpenAIの画像APIも、画像を入力して編集・生成できると説明しています(OpenAI 画像生成ガイド)。構図が近いカットの色違い・服違いを作るのに向いています。
方法3:LoRAで追加学習する
LoRA(Low-Rank Adaptation)は、学習済みのモデル本体は変えずに、小さな追加部分だけを学習させる手法です(原論文:Hu ほか(2021年))。Stable Diffusion系(オープンに公開された画像生成モデルとその派生)の画像生成では、少ない計算資源で特定の人物や画風を覚えさせる方法として使われ、出来上がるファイルも小さく扱いやすいと説明されています(Hugging Face Diffusers ドキュメント)。長期間・大量のカットで同じモデルを使うなら有力な選択肢ですが、学習に使う画像はすべて自社で権利を持つものにしてください。

実在の人物の写真を参照画像やLoRAの学習に使うと、その人に似たモデルができます。社員やモデルをもとにする場合は、本人の同意と、利用範囲・期間・報酬を定めた契約が前提です。声や容姿の権利の考え方は<a href="https://sac.epoch-inc.jp/magazine/articles/ai-voice-portrait-rights/">AIと肖像権・声の権利の解説記事</a>を参照してください。
工程3〜4|バリエーションを作り、商品を合成する.
工程3:ポーズ・衣装・背景を展開する
顔が固定できたら、1回の生成で変える要素を1つか2つに絞って展開します。顔・服・ポーズ・背景・光を一度に変えると、どこかが崩れたときに原因が分からず、顔も揺れやすくなります(編集部の経験則)。
- ポーズ:立ち・歩き・座り・振り向きなど、ECで使う基本ポーズを先にそろえる
- 衣装:ここではまだ「仮の服」でよい。実際の商品は工程4で合成する
- 背景と光:スタジオの白背景、屋外、室内など、媒体ごとに必要な背景を決める
参照画像の人物と同じ人物で描いてください。顔立ち・髪型・肌の質感・メイクは変えないこと。 変更点:ポーズのみ(例:左足を一歩前に出して歩いている、全身、正面からやや右) 服装:参照画像と同じ 背景:無地のライトグレーのスタジオ背景 光:正面やや上からのやわらかい光、影は薄く 構図:縦4:5、頭から足先までを入れ、上下に少し余白 除外:ロゴ、文字、アクセサリーの追加、実在のブランド
崩れやすい部分は先に確認する
手指、髪の毛先、アクセサリー、服の柄や縫い目は、生成画像で破綻が出やすい部分です。展開のたびに拡大して確認し、崩れたカットは無理に直さず生成し直すほうが早いこともあります。
工程4:商品を合成し、レタッチで仕上げる
広告・EC用のバーチャルモデルで最も重要なのは、商品は実物の写真を使うことです。服やバッグそのものをAIで描かせると、色・柄・形・ロゴが実物と少しずつ違う画像になります。購入判断に使われる画像で実物と違う見せ方をすると、景品表示法の優良誤認(実際より著しく優れていると誤認させる表示)にあたるおそれがあります(消費者庁「優良誤認とは」)。
合成の基本手順
商品を撮影する
トルソーや平置きで、色が正しく出る光で撮ります。色見本(カラーチャート)を一緒に写しておくと、後で色合わせがしやすくなります。
モデル画像に合成する
AIのモデル画像に、商品写真を体の形に合わせて合成します。画像編集AIで「この服を着せる」機能を使う場合も、出力の柄・ロゴ・ボタンの数が実物どおりかを必ず照合します。
光と影をなじませる
モデル側の光の向きに合わせて、商品の影や陰影を整えます。ここが合っていないと「貼り付けた感」が出ます。
破綻を直す
手指、髪と服の境目、首まわりなどを人がレタッチします。
実物と並べて確認する
完成画像を実物の商品と並べ、色・丈・サイズ感が違っていないかを、制作者以外の人が確認します。
EC画像でAIをどこまで使ってよいかの考え方は、EC商品画像のAI活用事例の記事でも整理しています。
工程5|権利・規約・表示を確認する.
実在しない人物だからといって、確認が不要になるわけではありません。むしろ「誰にも似ていないこと」を、作った側が説明できる状態にしておく必要があります。
- 実在人物との類似:偶然でも、著名人に似た人物を広告に使うと、本人と誤認されたり、イメージを利用したと受け取られたりするおそれがあります。複数人の目で確認し、似ていると感じたら作り直します
- ツールの規約:商用利用の可否はツール・プランごとに違います。確認の観点は商用利用で安全な画像生成AIの選び方を参照してください
- 著作権:既存の作品やキャラクターに似た出力にも注意が必要です。文化庁は、生成AIと著作権の考え方やチェックリストを公開しています(文化庁「AIと著作権について」)
- 媒体のAI表示:Metaは、生成AIで作成・大きく編集した広告に「AI情報」を表示するとしており、2026年6月には表示場所を「この広告について」に移し、他社のAIツールで作った広告もC2PAなどの業界標準で検出する方針を示しています(Meta Newsroom)。表示方法は改定が続いているため、出稿前に最新のヘルプを確認してください
- 見せ方の誤認:AIモデルを実在の愛用者のように見せて口コミ風に使うと、誤認を招くおそれがあります。2023年10月1日からは、広告であることが分からない表示(いわゆるステマ)も景品表示法の対象です(消費者庁)

AIで作った人物であることを広告上で開示するかどうかは、媒体のルールに加えて、自社の方針として決めておくことをおすすめします。生成AIを広告に使うときの全体的な注意点は生成AIを広告に使うときの注意点の記事で解説しています。
外注する場合の費用の目安.
バーチャルモデルの制作や、AIモデルを使った着用画像の作成を外部に頼む場合、料金体系は大きく「既存のAIモデルを期間契約で使う」「オリジナルのモデルを作ってもらう」「1点ごとに合成・加工してもらう」に分かれます。公開されている料金の例は次のとおりです(編集部調べの目安)。
| サービス例 | 内容 | 公開されている料金 | 税区分 |
|---|---|---|---|
| JPC「AI/AD MAKERS」 | 既存AIモデルとの契約 | 2万円/1年契約(参考価格) | 記載なし |
| JPC「AI/AD MAKERS」 | オリジナルAIモデルの制作 | 3万円〜(買取、参考価格) | 記載なし |
| JPC「AI/AD MAKERS」 | 合成処理・表情やヘアメイク変更・衣装変更 | 各6,000円〜/1点(参考価格) | 記載なし |
| 写真加工屋さん | AIモデル画像の生成 | 目安として1枚1,000円〜(画像サイズで変動、個別見積もり) | 記載なし |
出典:AI/AD MAKERS(アパレル向け) / 写真加工屋さん「AIモデル生成」(いずれも2026年10月に編集部確認)
見積もりを比べるときは、金額より先に次の条件をそろえてください。
- 権利の扱い:モデルは買い取りか、期間契約か。契約が切れた後に画像を使い続けられるか
- 独占性:同じAIモデルが他社の広告にも出るか
- 商品撮影の有無:商品の撮影・切り抜きが料金に含まれるか
- 修正回数と破綻の手直し:手指や服の破綻を直す作業がどこまで含まれるか
AI広告制作全体の費用の考え方はAI広告制作の費用相場の記事、依頼先の選び方はAIクリエイターへの依頼ガイドで解説しています。
よくある質問.
Qバーチャルモデルに肖像権はありますか?
Q生成するたびに顔が変わってしまいます。どうすればよいですか?
Q服や商品もAIで生成してよいですか?
QAIで作ったモデルであることを表示する必要はありますか?
Q社員をモデルにしたバーチャルモデルを作れますか?
まとめ|「同じ人を、正しく見せ続ける」仕組みを作る.
- 最初に設定書で人物像とNG条件を決め、確定プロンプトを固定する
- 顔は参照画像・画像編集・LoRAで固定する。規模に応じて使い分ける
- 展開は変える要素を1つに絞る。崩れやすい手指・髪・柄は毎回確認する
- 商品は実物を撮影して合成し、実物と並べて確認する
- 公開前に類似・規約・AI表示・景品表示法を確認し、生成ログを残す
※ 本記事は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。個別の案件については弁護士等の専門家にご確認ください。記載は2026年10月時点の情報です。
自社ブランドに合うバーチャルモデルの設計から運用ルールまで、一緒に整理します.
