この記事でわかること
- 依拠性とは何か、類似性とどう組み合わさって著作権侵害になるのか
- 生成AIでは「知らなかった」がなぜ通用しにくいのか(学習データと依拠性の推認)
- i2i・固有名詞プロンプト・LoRA(Low-Rank Adaptation:既存モデルに特定の画風や人物を少量のデータで追加学習させる手法)などの追加学習が、依拠性にどう影響するか
- 依拠性を否定する材料になりうる事情と、それを主張するのは誰か
- 企業が依拠性リスクを下げるための4つの実務と、記録のテンプレート
生成AIでは、利用者が既存作品を知らなくても、その作品が学習データに含まれていれば、通常は依拠性が推認されると整理されています。「知らなかった」だけでは身を守りにくいため、他者の作品や固有名詞を入力しないこと、生成の経緯を記録すること、公開前に類似チェックで止めることの3点が、企業にとって現実的な備えになります。
依拠性とは|著作権侵害の「もう1つの要件」.
既存の著作物の著作権を侵害したといえるには、大きく2つの要件がそろう必要があります。文化庁がまとめた「AIと著作権に関する考え方について」の概要でも、生成AIを使った場合の侵害の判断は、人がAIを使わずに創作した場合と同じく、この2つで行うとされています。
- 類似性:既存の著作物の創作的表現が、新しい作品にも共通していること。判例上は、既存の著作物の「表現上の本質的な特徴を直接感得できるか」で判断されてきました
- 依拠性:既存の著作物をもとにして作ったこと。言いかえると、既存の作品に接し、それを利用して作ったかどうかです
依拠性という考え方があるのは、まったく独立に作ったものが偶然似てしまった場合まで侵害とはしないためです。音楽の世界でいえば、既存の曲を一度も聴いたことがない人が、たまたま似たメロディーを作った場合がこれにあたります。「考え方」は、既存の判例・裁判例では、制作者が既存の著作物の表現内容を認識していたことや、同一性の程度の高さなどによって依拠性の有無が判断されてきたと説明しています(「考え方」)。
類似性と依拠性は「両方そろって」侵害
2つの要件は、どちらか一方だけでは侵害になりません。強く参考にした作品があっても、創作的表現が共通していなければ(作風やアイデアが似ているだけなら)侵害にはなりません。逆に、表現が似ていても、依拠していなければ偶然の一致です。類似性と依拠性の組み合わせを4つの象限で整理した図は生成AIの商用利用と著作権の解説記事に載せています。本記事では、生成AIで考え方が大きく変わる依拠性の側に絞って掘り下げます。
「依拠性」は著作権法の解釈(判例)で使われる用語で、条文に定義はありません。判例の積み重ねで形づくられてきた考え方です。似ているかどうか(類似性)の確認方法は<a target="_blank" rel="noopener noreferrer nofollow" href="https://sac.epoch-inc.jp/magazine/articles/ai-image-copyright-check/">AI画像の著作権を確認する方法</a>で手順を解説しています。
人の創作と生成AIで、依拠性の考え方はどう違うか.
人が描いたり書いたりする場合、依拠性は「その作品に接する機会があったか」から推認されてきました。有名な作品であれば見たことがあるだろう、SNSで拡散されていた作品なら目にしたはずだ、という具合です。権利者の側は、相手が作品にアクセスできたこと(アクセス可能性)や、似ている程度が非常に高いことを示して、依拠を推認させるのが一般的です。
生成AIでは、この前提が揺らぎます。利用者本人は既存作品を知らないのに、AIがその作品を学習していたために、似たものが出力されることがありうるからです。「考え方」も、このような事情は従来の依拠性の判断に影響しうるとして、生成AIでの依拠性を場面ごとに整理しています。

① 利用者が既存作品を認識していた場合
生成AIを使っていても、利用者が既存の著作物を認識していて、その創作的表現を持つものを生成させた場合は、依拠性が認められ、利用者による著作権侵害が成立すると考えられています。「考え方」は典型例として、i2i(Image to Image:画像を生成AIに指示として入力し、画像を得る方式)で既存の著作物そのものを入力する場合と、既存の著作物の題号などの固有名詞をプロンプトに入力する場合を挙げています。
② 認識していなかったが、学習データに含まれていた場合
実務上いちばん重要なのがこの場面です。「考え方」は、利用者が既存の著作物を認識していなくても、その生成AIの開発・学習段階で当該著作物を学習していた場合は、客観的にその著作物へのアクセスがあったと認められるとしています。そのため、似た生成物が出力された場合は、通常、依拠性があったと推認され、利用者による著作権侵害になりうると整理されています。
③ 認識しておらず、学習データにも含まれていない場合
この場合は、似た生成物が出たとしても偶然の一致にすぎず、依拠性は認められないと考えられています。人の創作で「一度も見たことがない作品と偶然似た」場合と同じ扱いです。
④ 学習データに含まれていたかどうか分からない場合
多くのモデルは学習データの全容を公開していないため、実際にはこの状態が最も多いと考えられます(編集部の見立て)。「考え方」は、従来の判例・裁判例を踏まえると、権利者がアクセス可能性や生成物との高度な類似性などを立証すれば、依拠性の推認を得られると考えられるとしています。
「AIが勝手に似せた」はなぜ通用しにくいのか.
②と④を合わせて読むと、生成AIの利用者にとっての現実が見えてきます。広く使われているモデルの多くは、インターネット上の大量のデータで学習していると考えられ、有名な作品ほど学習データに含まれている可能性は高いといえます(編集部の見立て)。そのうえで出力が既存作品に強く似ていれば、利用者が知らなかったとしても依拠性は推認されやすいということです。
依拠性が推認された場合、今度は利用者の側が「依拠していない」ことを主張する必要が出てきます。「考え方」は、その生成AIの学習データに当該著作物が含まれていないことなどが、依拠性を否定する間接事実(直接の証拠ではないが、結論を推し量る材料になる事実)になるとしています。

技術的な措置がある場合の扱い
「考え方」は、学習に使われた著作物の創作的表現が生成・利用段階で出力されることはないといえる状態が技術的に担保されている場合もありうるとしています。具体的には、学習に使われた著作物と創作的表現が共通した生成物が出ないよう出力段階でフィルタリングする措置がとられている場合や、生成AI全体の仕組みから、そうした表現が生成されないことが合理的に説明できる場合が想定されています。このような事情を利用者が主張することで、学習データに含まれていた場合でも、依拠性がないと判断される場合はありうるとされています。
ただし同じ箇所には、AIが過去に学習した以上、こうした措置があっても依拠性は否定されず、利用者の過失が否定されるにとどまる、という意見があったことも記されています。技術的な措置があれば安全、とまでは言い切れない点に注意してください。
依拠性と「責任の重さ」は別の話
依拠性と類似性がそろって侵害になる場合でも、どんな措置を受けるかは、行為者の故意・過失の有無で変わります。「考え方」は、差止請求は故意・過失がなくても受けうる一方、損害賠償請求には故意または過失が、刑事罰には故意が必要だと整理しています。つまり、知らなかったことは賠償や刑事責任の場面では意味を持ちうるが、差止め(使用停止・廃棄など)は避けられない可能性があるということです。損害賠償の考え方は生成AIの著作権侵害と損害賠償の解説記事で整理しています。
i2i・固有名詞プロンプト・LoRAは何が危ないのか.
依拠性の観点から、企業の制作現場で特に注意したい使い方が3つあります。いずれも「考え方」で具体的に言及されているものです。
| 使い方 | 依拠性への影響 | 現場での扱い(編集部の推奨) |
|---|---|---|
| i2i(画像を入力して生成) | 既存の著作物そのものを入力すれば、利用者が認識していたことは明らか。依拠性が認められる典型例 | 入力してよいのは自社で権利を持つ画像、許諾済みの素材、自分で撮影・作成した素材に限る |
| 固有名詞を入れたプロンプト | 作品の題号などの固有名詞を入力すると、既存作品を認識していたことを推認させる事情になる | 作品名・キャラクター名・作家名・ブランド名は禁止ワードとして社内ルールに明記する |
| LoRAなどの追加学習モデル | 特定のクリエイターの少量の作品だけで追加学習したモデルは、その作品群の創作的表現が出力されやすい。出力に創作的表現が直接感じ取れれば侵害になりうる | 出所が分からない追加学習モデルは業務で使わない。自社で作る場合は権利を持つ素材だけで学習する |
LoRAは「学習段階」と「生成段階」の両方で問題になりうる
前述のとおりLoRAは、既存のモデルに少量のデータを追加で学ばせ、特定の絵柄やキャラクターを出しやすくする技術です。「考え方」は、学習データに含まれる著作物の創作的表現を意図的に出力させることを目的とした追加学習は、学習段階でも著作権法30条の4の対象外になりうると整理しています。そのうえで、生成段階では、出力された画像に既存作品の創作的表現が感じ取れれば、通常どおり類似性と依拠性で侵害が判断されます。学習段階の論点はAI学習データと著作権の解説記事で詳しく扱っています。
なお、作風や画風が共通するだけなら、それはアイデアの共通であり、著作権侵害にはならないというのが「考え方」の整理です。ただし、作家名を指定したプロンプトは依拠性を推認させる事情になりうるうえ、アイデアと創作的表現の境目は個別に判断されます。「〇〇風なら安全」とは考えないのが実務的です。プロンプトの書き方そのものの注意点は画像生成AIのプロンプトと著作権もあわせてご覧ください。
【生成AIへの入力で禁止すること】 1. 他者が権利を持つ画像・イラスト・写真・文章の入力(i2i、参照画像、貼り付けを含む) ※自社で権利を持つもの、許諾を得たもの、自分で撮影・作成したものは可 2. 作品名・キャラクター名・作家名・ブランド名など、既存作品を特定できる固有名詞 3. 出所の分からない追加学習モデル(LoRA等)の業務利用 4. 「〇〇そっくりに」「〇〇の続編として」など、既存作品の再現を求める指示 【迷ったとき】 制作責任者に相談し、判断の経緯を案件フォルダに記録する
社内ガイドライン全体の作り方は生成AIの社内ガイドラインの作り方の解説記事で解説しています。
企業が依拠性リスクを下げる4つの実務.
依拠性は「作った人の頭の中」の問題に見えますが、実際の紛争では、記録や入力内容といった外から確認できる事実で判断されます。企業ができる対策は、その事実を自分たちに有利な形で残しておくことです。

モデルを選び、使ったものを記録する
学習データの方針を公表しているか、類似した出力を防ぐ仕組み(固有名詞プロンプトの拒否、出力フィルタなど)があるかを確認します。「考え方」が依拠性を否定する材料として挙げる事情は、ツール選びの段階で決まる部分が大きいためです。使ったモデル名とバージョンは案件ごとに残します。
入力をルール化する
前の章の禁止入力を社内ルールにし、制作者全員が同じ基準で判断できるようにします。とくに受託制作では、クライアントから支給された参考画像をi2iに入れてしまう事故が起きやすいため、支給素材の権利確認を工程に入れておきます。
生成ログをその場で残す
プロンプト、入力素材、日時、生成結果、採用・不採用の判断を保存します。あとからまとめて記録しようとすると漏れるため、生成した時点で保存する運用にします。
公開前の類似チェックで止める
画像検索などで似た既存作品がないかを確認し、高度に似ていれば公開・納品しません。チェックリスト&ガイダンスも、利用に先立って類似物がないか確認することを挙げています。確認した結果も記録に残します。
| 記録する項目 | 記録の例 | 依拠性との関係 |
|---|---|---|
| ツール・モデル・バージョン | サービス名、モデル名、バージョン、契約プラン | 学習データの情報や技術的措置を、あとから調べ直せる |
| プロンプト全文 | ネガティブプロンプトや設定値も含めて保存 | 固有名詞を入れていないことを示せる |
| 入力素材と権利の出所 | 参照画像のファイル、撮影者・権利者、許諾の有無 | 他者の作品を入力していないことを示せる |
| 生成日時と試行の経緯 | 何回目の生成か、どこを修正したか | 既存作品を狙っていないことを説明しやすくなる |
| 類似チェックの結果 | 検索に使った手段、日時、見つかった類似物と判断 | 公開前に注意を尽くしたことの記録になる |
記録は、紛争になったときの防御材料であると同時に、文化庁「AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」が求める確認を実際に行ったことの証跡にもなります。同ガイダンスは、AI利用者のリスク低減策として、利用に先立って既存の著作物と類似していないかを確認すること(インターネットの文章検索・画像検索の活用など)と、生成に用いたプロンプト等、生成物の生成過程が確認可能な状態の確保に努めることを挙げています。社内での運用ルール全体は生成AIの社内ガイドラインの作り方を参考にしてください。
よくある質問.
Q既存作品を知らずに生成した画像が似ていた場合、侵害になりますか?
Q知らなかった場合でも、損害賠償を請求されますか?
Q学習データを公開していないツールを使うのは危険ですか?
Q社内で作ったLoRAなら問題ありませんか?
Q「〇〇風」と作家名を入れて生成するのは侵害ですか?
まとめ|依拠性は「記録」で備える.
- 著作権侵害は類似性と依拠性がそろったときに成立しうる。依拠性は「既存作品をもとに作ったか」
- 生成AIでは、既存作品が学習データに含まれていれば、利用者が知らなくても通常は依拠性が推認される
- i2iでの入力・固有名詞プロンプト・特定作家のLoRAは、依拠性が認められやすくなる典型
- 依拠性を否定するには、学習データや技術的措置、入力内容などを利用者側が主張する必要がある
- 企業の備えはモデルの記録・入力ルール・生成ログ・類似チェックの4つ。知らなくても差止めは受けうる
関連して、AIで作ったものに自社の著作権が発生するかはAI生成物に著作権は発生するかの解説記事、国内外の裁判の動きは生成AIと著作権の判例・裁判例まとめ、制度の流れは生成AIと著作権の法改正・制度整備まとめで整理しています。
参考にした一次情報:文化審議会著作権分科会法制度小委員会「AIと著作権に関する考え方について」(2024年3月15日) / 文化庁著作権課「同【概要】」 / 文化庁「AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」(2024年7月31日) / 文化庁「AIと著作権について」
※ 本記事は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。個別の案件については弁護士等の専門家にご確認ください。記載は2026年10月時点の情報です。
生成AIの入力ルールと生成ログの運用を、自社の制作フローに合わせて設計します.
