この記事でわかること
- 生成AIと著作権に関係する国内の制度が、いつ・誰によって・どんな性格で作られたか
- 著作権法の改正(ハードロー)と、解釈の整理・ガイドライン(ソフトロー)の違い
- 2025年のAI法と、著作権法との関係
- 知的財産推進計画2026とプリンシプル・コードが示す今後の方向
- 企業が制度の変化を追うときに押さえるべきポイント
生成AIに関係する著作権法の改正は、2018年の30条の4新設が最後で、その後の動きは「現行法をどう読むか」の整理と、法的拘束力のないソフトローが中心です。2025年のAI法はAIの推進に関する基本法で、著作権のルールを変えたものではありません。2026年8月には、生成AI事業者の透明性を求めるプリンシプル・コードが知的財産戦略本部から公表され、対価還元や救済の強化も議論の焦点になっています。
まず区別したい「法改正」と「解釈・ガイドライン」.
制度の流れを追う前に、それぞれの資料の性格をそろえておきます。性格が違うものを同じ「ルール」として扱うと、守るべきことの優先順位を誤ります。
| 資料 | 作成主体 | 性格 | 法的拘束力 |
|---|---|---|---|
| 著作権法(30条の4など) | 国会 | 法律 | あり |
| AI法(人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律) | 国会 | 法律(推進のための基本法) | あり(罰則規定は設けられていない) |
| AIと著作権に関する考え方について | 文化審議会著作権分科会法制度小委員会 | 現行法の解釈の整理 | なし |
| AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス | 文化庁 | 関係者向けの手引き | なし |
| AI事業者ガイドライン | 総務省・経済産業省 | AIの開発・提供・利用の指針 | なし |
| 知的財産推進計画2026 | 知的財産戦略本部 | 政府の年次計画 | なし(政策の方向を示す) |
| プリンシプル・コード(2026年8月公表) | 知的財産戦略本部(AI時代の知的財産権検討会で検討) | 実施するか、しない理由を説明するかを求める原則 | なし |

よく誤解されるのが、文化審議会の「考え方」と文化庁の「チェックリスト&ガイダンス」の関係です。「AIと著作権に関する考え方について」は文化審議会著作権分科会法制度小委員会(法学者や弁護士などの有識者による審議会)が取りまとめたもので、「チェックリスト&ガイダンス」は文化庁が、その内容などを関係者ごとの具体的な行動に落とし込んだものです。どちらも法的拘束力はありませんが、現行法の解釈の目安として、実務では最も参照されています。
2018年|著作権法改正で30条の4が生まれた.
生成AIと著作権に関係する法律の改正として最も重要なのは、2018年の改正です。「著作権法の一部を改正する法律」は2018年5月18日に成立し、5月25日に平成30年法律第30号として公布され、一部の規定を除いて2019年1月1日に施行されました(文化庁)。
この改正では、デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した「柔軟な権利制限規定」(権利制限規定:著作権者の許諾なく著作物を使える場面を定めた規定)が整備され、その中心が30条の4です。著作物に表現された思想や感情を享受することを目的としない利用(AIの学習を含む情報解析など)は、必要と認められる限度で、原則として著作権者の許諾なく行えるようになりました。あわせて、コンピュータでの著作物の利用に付随する利用(47条の4)や、所在検索・情報解析の結果の提供に付随する軽微な利用(47条の5)も整備されています。
注目したいのは、この改正が生成AIが普及する前に行われたことです。「考え方」も、柔軟な権利制限規定を設けた2018年改正の検討時には、人の指示で生成物を作るAIはすでに存在していたものの、生成AIの実社会での利用が進むなかで、さまざまな関係者から懸念の声が上がるようになったと振り返っています。30条の4の中身とただし書、RAGの扱いはAI学習データと著作権の解説記事で詳しく解説しています。

2024年|法改正ではなく「解釈の整理」が進んだ.
2023年に画像生成AIや対話型AIが急速に広がると、「学習は本当に無制限に許されるのか」「AIで作ったものに著作権はあるのか」といった疑問が噴き出しました。これに対して国がとったのは、法律を変えるのではなく、現行法の解釈を整理するという対応でした。
| 時期 | 資料 | 主体 | 主な内容 |
|---|---|---|---|
| 2024年3月15日 | AIと著作権に関する考え方について | 文化審議会著作権分科会法制度小委員会 | 学習段階と生成・利用段階を分け、30条の4の適用範囲、依拠性の考え方、AI生成物の著作物性などを整理 |
| 2024年4月 | AI事業者ガイドライン(第1.0版) | 総務省・経済産業省 | AIの開発者・提供者・利用者が取り組むべき事項の指針。その後改訂を重ねている |
| 2024年5月 | AI時代の知的財産権検討会 中間とりまとめ | 内閣府(知的財産戦略推進事務局) | 著作権以外の知的財産権も含めて、生成AIとの関係を整理 |
| 2024年7月31日 | AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス | 文化庁 | 「考え方」などをもとに、開発者・提供者・利用者・権利者ごとのリスク低減策をまとめた手引き |
「考え方」は、判例・裁判例の蓄積がない現状を踏まえて整理したものであり、法的拘束力はなく、特定の生成AIについて確定的な法的評価を行うものではないと位置づけられています(文化庁「AIと著作権について」)。それでも、学習段階で享受目的が併存する場合や、生成AIで依拠性がどう推認されるか、AI生成物が著作物になる条件といった論点に、国として初めてまとまった考え方を示した意義は大きいといえます。各論点の中身は生成AIの依拠性の解説記事とAI生成物に著作権は発生するかの解説記事で掘り下げています。AI事業者ガイドラインは改訂が続いており、最新版は経済産業省のページで確認できます。
「考え方」は、著作権者への対価還元について、30条の4の趣旨を踏まえると、著作権法に補償金制度を導入することは理論的な説明が難しいとしつつ、著作権法の枠にとどまらず市場での対価還元を促す検討が必要だとしています。この論点は、2026年の知財推進計画にも引き継がれています。
2025年|AI法の成立と、その位置づけ.
2025年5月28日、「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」(AI法)が成立しました。6月4日に公布・一部施行され、9月1日にはAI戦略本部の設置に関する規定なども含めて全面施行されています(内閣府「AI法 全面施行」)。
AI法は、AIの研究開発と活用を推進するための基本法です。首相を本部長とするAI戦略本部を置き、AI基本計画を定める枠組みをつくりました。著作権法の規定を変えたものではなく、学習や生成物の著作権のルールは、引き続き著作権法と「考え方」などの解釈に委ねられています。AI基本計画は2025年12月23日に初めて閣議決定され、内閣府は2026年7月14日に「人工知能基本計画(第Ⅱ期)」を閣議決定したと公表しています(内閣府「AI戦略」)。
社内ルールづくりの観点では、AI法は「罰則で縛る法律」ではない一方、個人情報保護法や著作権法など既存の法律は生成AIの利用にもそのまま適用される、と理解しておくのが実務的です。社内ガイドラインへの落とし込み方は生成AIの社内ガイドラインの作り方で解説しています。
2026年|知財推進計画とプリンシプル・コード.
知的財産推進計画2026(2026年6月)
知的財産戦略本部が2026年6月に決定した「知的財産推進計画2026」は、重点のひとつに「生成AI等の新たな時代に即した知的財産の保護」を掲げ、AI法やAI基本計画を踏まえて、生成AI技術の進歩の促進と知的財産権の適切な保護の両立に向けた検討を進めるとしています。概要資料で示された主な方向は次のとおりです。
- 権利者や利用者にとって安全・安心な利用環境の確保を目的とするプリンシプル・コード(仮称)を制定し、クリエイター等への対価還元に向けた環境構築を促進する
- 生成AIによる要約サービスとrobots.txtなどの技術的措置の関係について、ユーザーエージェントの開示やrobots.txtの遵守などの措置の在り方について課題を整理する
- 俳優や声優などの声を模倣した音声の無断生成・公開について、法的整理の検討とガイドラインの作成を行い、不正競争防止法の改正を含むハードロー整備の必要性についても議論を続ける
- 侵害抑止の実効性を高めるため、損害の回復と侵害者の利益の剥奪を確実にする民事救済措置の規定の導入、権利行使を容易にする仕組み、権利者の証拠収集の円滑化を検討する
プリンシプル・コード|生成AI事業者の透明性
知的財産戦略本部は2026年8月25日、「生成AIの適切な利活用等に向けた知的財産の保護及び透明性に関するプリンシプル・コード」を公表しました(国立国会図書館カレントアウェアネス・ポータル)。内閣官房の「AI時代の知的財産権検討会」で検討され、2025年12月26日から案の意見募集が行われたのち、2026年8月18日の第13回検討会で最終案が了承されたものです。
生成AI事業者(生成AIを公衆に提供する開発者・提供者)に対し、使用モデルや学習データ、クローラの情報などの概要開示や、権利者・利用者からの照会への回答体制を求める内容です。原則を実施するか、実施しない場合はその理由を説明する「コンプライ・オア・エクスプレイン」方式(実施か、さもなくば説明かを選ぶ方式)をとり、本文でも法的拘束力を有する規範ではないとされています。コードを受け入れる事業者は、受入れ表明などを自社サイトで公表し、内閣府知的財産戦略推進事務局に届け出る運用です。

参考:2026年の著作権法改正は生成AIとは別テーマ
2026年には著作権法の一部を改正する法律(令和8年法律第48号)が6月17日に成立し、6月24日に公布されました。ただしその中心は、店舗などで音楽CDや配信音源が再生された場合に実演家やレコード製作者が使用料を受け取れる「レコード演奏・伝達権」の新設で、生成AIに関する改正ではありません(文化庁の改正法のページ)。「2026年に著作権法が改正された」という情報に接したときは、何が改正されたのかを確認してください。
今後の論点と、企業の追いかけ方.
2026年10月時点で見えている今後の論点を、企業の立場から整理します。公表済みのプリンシプル・コードを除き、多くはまだ検討段階で、議論の方向として押さえておくものです。
| 論点 | 現在の状況 | 企業への影響(編集部の見立て) |
|---|---|---|
| 生成AI事業者の透明性 | 公表済み。事業者が受け入れを公表・届出する運用 | ツール選定時に、学習データの開示や照会窓口の有無を比較材料にできる。自社でAIサービスを外部提供する場合は、対象になるかの確認が必要 |
| 対価還元 | 著作権法に補償金制度を入れることは難しいとされ、市場での対価還元の環境整備が検討されている | データのライセンス契約や、権利処理済みの学習データを使ったツールの選択肢が広がる可能性 |
| 技術的措置(robots.txt等) | 要約サービスとの関係で、ユーザーエージェントの開示や遵守の在り方を整理 | 自社サイトのrobots.txtの方針を決めておく。検索用と学習用のクローラを区別して判断する |
| 声・肖像の保護 | 法的整理とガイドラインの作成、不正競争防止法の改正を含めて議論を継続 | AI音声やAIモデルを使う広告では、本人の許諾と契約がこれまで以上に重要になる |
| 侵害への救済 | 民事救済の規定の導入や、証拠収集の円滑化を検討 | 侵害したときの責任が重くなる方向。公開前の確認と記録の重要性が増す |
声や肖像の論点はAI音声と肖像権の解説記事、海外も含めた裁判の動きは生成AIと著作権の判例・裁判例まとめで整理しています。海外では、EUのAI法が汎用AIモデルの提供者に学習データの要約公開などを義務づけ、2026年8月2日から欧州委員会の執行権限が適用されています(欧州委員会)。
制度の変化を追うときのチェックポイント
Checklist- その資料は「法律」か「解釈・ガイドライン」か(作成主体はどこか)
- 施行・適用の日付はいつか。すでに適用済みか、予定か
- 誰に向けたルールか(AI開発者・提供者・利用者・権利者)
- 自社が「生成AI提供者」に当たる事業をしていないか
- 社内ガイドラインの記載が最新の資料と食い違っていないか
- 利用中のAIツールの規約や学習データの方針が変わっていないか
よくある質問.
Q生成AIに対応するために、著作権法は改正されたのですか?
QAI法で、生成AIの著作権のルールは変わりましたか?
Q文化審議会の「考え方」に従わないと違法になりますか?
Qプリンシプル・コードは、AIを使うだけの企業にも関係しますか?
Q今後、学習に許諾が必要になるような法改正はありえますか?
まとめ|「何が、どの性格で変わったか」を押さえる.
- 生成AIと著作権に関係する著作権法の改正は2018年の30条の4新設(2019年施行)
- 2024年は解釈の整理の年。文化審議会の「考え方」(3月)と文化庁のチェックリスト(7月)
- 2025年のAI法はAI推進の基本法で、著作権のルールを変えたものではない
- 2026年は知財推進計画で、透明性・対価還元・救済の強化が論点に。プリンシプル・コード(2026年8月公表)は法的拘束力のない原則
- 情報に接したら、法律かガイドラインか、適用済みか予定かをまず確認する
生成AIを商用で使うときの判断の枠組みは生成AIの商用利用と著作権の解説記事で整理しています。
参考にした一次情報:文化庁「著作権法の一部を改正する法律(平成30年法律第30号)について」 / 文化審議会著作権分科会法制度小委員会「AIと著作権に関する考え方について」(2024年3月15日) / 文化庁「AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」(2024年7月31日) / 内閣府「AI法 全面施行」 / 知的財産戦略本部「知的財産推進計画2026」概要 / 知的財産戦略本部「生成AIの適切な利活用等に向けた知的財産の保護及び透明性に関するプリンシプル・コード」(2026年8月)
※ 本記事は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。個別の案件については弁護士等の専門家にご確認ください。記載は2026年10月時点の情報です。
制度の変化に合わせた社内ルールの見直しを、実務に落とし込む形で支援します.
